ACE、最新のASEANエネルギー報告書を公表

(ASEAN)

調査部アジア大洋州課

2024年10月04日

ASEANエネルギーセンター(ACE、注1)は9月26日、今後のASEANのエネルギー移行を展望する報告書である「The 8th ASEAN Energy Outlook(2023 -2050)」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した(注2)。同報告書は、ASEANのエネルギー産業の現状を踏まえ、カーボンニュートラル(CN)実現に向けたさまざまなシナリオ分析や、政策提言をしている。同日に開催された「第42回ASEANエネルギー大臣会合」で承認され、現在策定中の「ASEANエネルギー協力行動計画(APAEC、注3)」の次期フェーズ(2025~2030年)にも示唆を提供している。

同報告書によれば、新型コロナ禍からの経済回復、急速な都市化などを理由に、ASEANのエネルギー消費は増加しており、今後も増加する見込みだ。しかし、各国が物流、産業、住宅部門で省エネ、エネルギー効率化などに取り組むことで、将来のエネルギー消費は削減可能としている。また、電気自動車(EV)や水素などの低炭素技術の導入も重要としている。

一方、昨今の地政学的リスクの高まり、世界的な脱炭素要求、エネルギー価格の変動は、ASEANのエネルギー安全保障に懸念をもたらしているという。特に、ASEANは2027年までに天然ガスの純輸入国・地域になるとの試算もあり、化石燃料の輸入増加は、やはりエネルギー安全保障の問題につながる。しかし、ACEは、各国が太陽光や風力、また潮力や波力など様々な再生可能エネルギー(以下、再エネ)を利用することで、化石燃料への依存度を大幅に減少させることができるとしている。

実際、ASEANはAPAECの下で、2025年までに、地域全体の電源容量の35%を再エネとする目標を設定しているが、同年の再エネ割合は、目標を超えて39.6%に達する見込みだ。

一方、ASEANは2025年までに、地域全体の一次エネルギー供給(TPES、注4)における再エネの割合を23%にし、またエネルギー使用量を2005年比で32%削減するという目標も有している。しかし、ACEは、現時点(2024年9月)で、これらの目標達成は難しいと分析し、エネルギー効率の向上、電化の促進、再エネ資源のさらなる活用が必要としている。

特に、ASEANにおける再エネ普及においては、蓄電池などのエネルギー貯蔵システムが、域内の送電網の安定化に必要としている。また、ASEANの段階的な脱炭素化には、各国間の電力融通、ガス関連のインフラやカーボンプライシング制度の整備、二酸化炭素・回収・貯留(CCS)技術の導入が鍵となる。さらに、電力の需要と供給のバランスを維持するため、スマートメーターやスマートグリッドなどの技術も必要としている。

(注1)ACEは、ASEAN傘下の国際機関で、各国のエネルギー管轄省庁やASEAN事務局と連携し、地域のエネルギー戦略策定に向けた提言などを行う。

(注2)同報告書は、2005年に初版が発行されて以降、数年ごとに作成され、今回が第8版となる。

(注3)ASEAN経済共同体(AEC)下におけるエネルギー分野の地域的な協力枠組み。

(注4)一次エネルギー供給(TPES)とは、電力や熱などの二次エネルギーに転換される前のエネルギー。石炭、石油、天然ガス、風力、太陽光などが含まれる。

(田口裕介)

(ASEAN)

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