IEA、送電網と蓄電池への投資増加の必要性を提示
(世界)
調査部国際経済課
2024年10月30日
国際エネルギー機関(IEA)は10月16日、2024年版の「世界エネルギー見通し」(World Energy Outlook)を発表した(10月16日付IEAプレスリリース)。同報告書は、既に公表や実施されている政策に限定して推計したSTEPSシナリオ(Stated Policies Scenario)に基づくと、「世界のエネルギー市場は、今後数年以内に新たな局面に突入する」と予測する。新たな局面とは、(1)石油や天然ガスなどの燃料は世界の需要を上回る供給量が確保できること、(2)太陽光発電やバッテリーなどのクリーンエネルギー技術の生産余力を意味する。IEAのファティ・ビロル事務局長は「燃料価格の上昇圧力から解放されることで、政策立案者がクリーンエネルギー投資への移行と非効率な化石燃料補助金を廃止することに注力する余地が生まれる」と述べ、政府の政策と消費者の選択がエネルギー部門の将来と気候変動への取り組みに大きな影響を与えると強調した。
IEAは、STEPSシナリオに基づくと、石炭、石油、天然ガスの3つの化石燃料の需要はいずれも2030年までにピークを迎えると予測する。世界のエネルギー供給に占めるこれらの化石燃料の割合は、ここ数十年は80%程度で推移してきたが、2030年までに75%、2050年までに60%に低下する。また、2030年までに世界の電力の半分以上が再生可能エネルギーを含む低排出電力源(注)により供給されると見通す。国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)に先立ち、IEAは電力部門による投資の再調整が必要と提案する。現在、再生可能エネルギー発電設備への投資1ドルに対し、送電網・蓄電池への投資は60セントにとどまる。これを同程度にするため、送電網・蓄電池網への投資の大幅な増加が必要と強調した。
ビロル事務局長はエネルギー分野での中国の大きな存在感を指摘し、「投資、化石燃料需要、再生可能エネルギーの導入、EV(電気自動車)市場、太陽光発電などのクリーンエネルギー技術の製造など、どれをとってもほとんど中国の話だ」と表現した。同報告書によると、電力市場の面では、過去10年間の世界の電力需要増加分のうち、3分の2は中国によるものだ。一方、サブサハラ・アフリカでは7億5,000万人が電気を使用できず、20億人以上が清潔な調理用燃料を使用できていない。COP29やG20での気候資金の議論は、発展途上国でのクリーンエネルギー投資が加速するかのバロメーターとなる。そのため、国の政策方針や政策、制度の強化、民間部門の積極的な関与が必要だとした。
(注)IEAの定義によると、低排出電力源とは、全ての再生可能エネルギー(太陽光、風力など)、原子力、CCUS(二酸化炭素の有効利用・貯蔵)やクリーン水素・アンモニア燃焼を伴ったかたちでの化石燃料のこと。
(板谷幸歩)
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