制裁下でも4年連続の成長、女性や若者の活用などが新たな課題、世界銀行
(イラン)
調査部中東アフリカ課
2024年07月19日
世界銀行は7月11日に「イラン経済モニター(IEM)」を発表し、イラン経済は、経済制裁にもかかわらず、石油部門の回復により4年連続で成長していることを報告した。2023年4~12月の実質GDP成長率は、石油部門が前年比16.3%、非石油部門が同3.5%の成長を記録した。また、イスラエルとハマスの衝突による影響は、シナリオによって異なるとし、ベースラインとダウンサイドのそれぞれで実質GDP成長率を予測しており、2024~2025年でそれぞれ3.2%とマイナス6.9%、2025~2026年ではそれぞれ2.7%と4.9%とした。
IEMでは、イランの経済動向や政策の影響を評価している。同国では2023年4~12月の9カ月間の実質GDP成長率は前年同期比5.0%で、石油部門とサービス部門が成長を牽引したとしている。同期間のGDPの8.6%を占める石油部門は輸出の改善、非石油部門は旺盛な国内需要とアラブ首長国連邦(UAE)など特定の近隣諸国への輸出が伸びたことが背景にあるとしている。
また、雇用率が3.3ポイント増加し、新型コロナウイルス禍前の水準を超え、失業率も過去最低の8.1%と、経済回復により雇用状況は改善したと報告している。一方で、労働人口の増加の半面、女性の労働参加率が14.2%と著しく低いことを指摘している。女性や若者、大学卒業生の失業率が特に高く、優秀な人材の国外流出とも相まって、ITや教育などさまざまな分野で労働力不足も生じており、人口の高齢化による人口構成の変化とともに、新たな課題として挙げている。
今後の経済見通しについては、BRICSや上海協力機構(SCO)への加盟で貿易が促進されているものの、金融活動作業部会(FATF、注)への非加盟や経済制裁の影響でその効果が限定的になっているとした上で、中国など特定の国との貿易集中によるリスクや、中東地域での紛争が大きく影響するとしている。一方で、長引く経済制裁が解除されれば、輸出の多様化や外国からの投資の増加、技術移転の促進などで、石油部門・非石油部門ともに大きく成長をすると見込んでいる。
なお、2024年6月にイラン中央銀行が発表したイラン暦1402年第3四半期(西暦2023年9月23日~12月21日)の石油部門を含めた全体の実質GDP成長率は前年同期比4.3%、非石油部門が同3.3%となっている(2024年7月1日記事参照)。
(注)金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF):マネーロンダリング・テロ資金供与対策の国際基準(FATF勧告)を策定し、履行状況について相互審査を行う多国間の枠組み。
(加藤皓人)
(イラン)
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