7月の米地区連銀報告、全体概況を引き下げ、今後の見通しは減速の方向性強まる
(米国)
ニューヨーク発
2024年07月19日
米国連邦準備制度理事会(FRB)は7月17日、地区連銀経済報告(ベージュブック)を発表した。5月21日~7月8日までの期間のデータに基づくもの。全体概況は、「経済活動は大多数の地区でわずかから控え目な成長ペースを維持した」「7つの地区は経済活動のある程度の増加を示した一方で、5つの地区は横ばいまたは減少を報告した(注)」とし、前回(10地区でわずかから控え目に増加、2地区で変化なし)から下方修正された。また、先行きに関しても、「今後の選挙、内政、地政学的紛争、インフレを巡る不確実性により、今後6カ月の成長は鈍化する」とし、前回(全体的な見通しはやや悲観的)よりも減速の方向性を強めた表現となった。
分野別では、消費について「家計支出はほとんど変化がなかった」として、前回(横ばいからわずかに増加)と比べ、下方修正された。ほとんどの地区で(1)小売事業者は商品の値引きを行っている、(2)価格に敏感な消費者は、必需品のみを購入する、購入する商品の品質を下げる、購入量を減らす、最も有利な条件の購入先を探す、などしていると報告されており、これに伴い価格に低下圧力が働いているもようだ。そのほか、「自動車販売は地区によりバラつきはあるが、サイバー攻撃(2024年7月2日記事参照)と高金利によって販売が減少した」「旅行および観光は着実に成長し、季節的な期待とほぼ一致した」といった内容も報告されている。
企業部門の活動に関しては、金融セクターでは「ほとんどの地区で消費者ローンおよび企業向けローンの需要が低迷した」、製造業では「急激な落ち込みから緩やかな成長まで大きく異なる方向が示された」、運輸業では「小売業の在庫補充に伴い輸送活動はわずかに増加した」と報告されている。
労働市場に関しては、雇用者数について、全体としてはわずかに増加したとの認識を示した。ほとんどの地区で横ばいまたはわずかに増加した一方、いくつかの地区では控え目に増加と報告されているものの、前回は見られなかった緩やかに増加(ニューヨーク連銀)、減速(カンザスシティー連銀)との回答も1地区ずつ存在しており、バラつきがやや広がっている。また、いくつかの地区(リッチモンド連銀、カンザスシティー連銀)では新規受注の減速により製造部門での雇用が減少した、との報告もなされている。
そのほか、(1)熟練労働者の確保はすべての地区で依然として課題だったものの、いくつかの地区では労働供給状況がいくらか改善した、(2)定着率が改善したため、新規に労働者を見つける必要性が低下した、(3)ほとんどの地区で賃金は控え目から緩やかに増加したものの、いくつかの地区では労働供給の増加に伴って労働者の獲得競争が緩和したため、賃金の伸びがいくらか鈍化したと報告され、全体的には労働市場の緩やかな減速が続いていることが示唆されている。
物価については「控え目に上昇した」とし、全体的な基調は前月と同様だったが、いくつかの地区ではわずかな上昇にとどまったとした。前述のとおり裁量的支出の減速を背景とした価格低下圧力が強まる一方、生産者価格に関しては、アトランタ連銀から銅や電気製品などが顕著に上昇しているとの報告もなされている。
(注)5つの地区のうち、変化なしと回答したのは3地区(ニューヨーク、アトランタ、サンフランシスコ)、減少と回答したのは2地区(クリーブランド、ミネアポリス)となっている。
(加藤翔一)
(米国)
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