米上院、航空機製造施設の監督強化など盛り込んだ法案を超党派で可決

(米国)

ニューヨーク発

2024年05月13日

米国連邦議会上院は5月9日、航空機製造施設への連邦航空局(FAA)の監督強化や国家運輸安全委員会(NTSB)調査官のためのツール改善などを盛り込んだ法案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを88対4の投票で可決した。米航空業界で続出する大規模な遅延や重大事故、航空機製造品質への懸念の高まりを背景に、法案は超党派による圧倒的多数で可決され、下院へ送付された。

法案を主導したマリア・キャントウェル上院商務・科学・運輸委員長(民主党、ワシントン州)の発表によると、今回可決の1,000ページに及ぶ法案には、主に次の条項が含まれる。

  • NTSBの勧告に基づき、重要データを保存し、将来の安全性改革に役立てるため、新たに製造するものも含め、民間航空機に25時間分のコックピット・ボイス・レコーダ(CVR)の装備を義務付け(注)。
  • FAAに対し、衝突事故を防ぐために滑走路の航空機や車両の動きを追跡する最新の空港路面状況認識技術の導入、滑走路の安全技術の評価や、空港路面検知装置などの技術の導入拡大を求める。
  • 2020年航空機認証・安全・説明責任法(ACSAA)に基づき、航空機の設計・製造に関するFAA安全基準の完全順守を促進するための新たな透明性、監督、説明責任要件を盛り込む。
  • NTSBが調査の対象とする事業体から、NTSBが必要とする録音、録画情報、設計仕様書、その他のデータを確実に入手できるようにする。
  • NTSBに7億3,800万ドルを提供し、調査官の増員と事故発生時の徹底的な調査を行う。
  • 乗客の航空運賃払い戻しに対する明確な権利を設定。国内線が3時間、国際線が6時間遅れた場合、払い戻しが必要となる。
  • 航空会社に対し、家族が隣同士で座るための座席料金を課すことを禁止。
  • 航空会社に対し、電話、ライブチャット、テキストメッセージによる顧客サービス担当者への24時間365日の無料アクセス提供を義務付け。

キャントウェル委員長は同法案の意義について「私たちが搭乗する飛行機がFAAの最高基準を満たしていることを保証するため、航空機認証の改革を継続するものだ」「払い戻しに対する法定権利は、消費者にとって大きな勝利だ。乗客はバウチャー(他のフライトに搭乗できるチケット)や代替便を拒否することができ、面倒な手続きなしに払い戻しを受けることができる」などと指摘している。

米国の航空業界では近年、度重なる大規模な遅延や重大事故、航空機製造品質への懸念など混乱が続いてきた。2022年12月のホリデーシーズンには、サウスウエスト航空が寒波の影響で1万6,900便を欠航し、200万人以上の乗客が足止めされた。この件については、欠航後の払い戻しや顧客対応が不十分で消費者保護法に違反したとし、米国運輸省は同社に1億4,000万ドルの罰金を科した。

2023年2月には地上警報システムを設置していない空港で、フェデックス・エクスプレスの貨物機が離陸中のサウスウエスト航空の航空機の上に着陸しそうになるニアミスが生じた。2024年1月にはアラスカ航空が運航する小型機ボーイング737MAX9の側壁パネルが飛行中に吹き飛び、緊急着陸する重大事故が生じた(2024年4月2日記事参照)。その後もボーイングの品質検査での不正行為などの報告が続いており、航空業界の信頼を揺るがす事態となっている。法案は下院へ送付され審議されるが、遅滞なく成立に向かうのか行方が注目される。

(注)現在の民間航空機のCVRは2時間しか録音できない。

(米山洋)

(米国)

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