米国、ニジェールから軍撤退を表明

(ニジェール、米国、ロシア、中国)

アビジャン発

2024年04月26日

米国は4月19日、西アフリカのニジェール軍事政権の要請を受けて同国に駐留する1,000人以上の米軍部隊を撤退させることに合意した。サヘル地域で長年にわたり米国の対テロ活動の要衝となってきたニジェールからの撤退は、同地域でのバイデン政権の安全保障戦略を覆すものだ。

ニジェールはフランス、米国など欧米諸国との連携を重視して、イスラム過激派対策を進めていたが、2023年7月のクーデターで西側諸国の安全保障に協力的な姿勢を示していたモハメド・バズム大統領が失脚し(2023年7月31日記事参照)、軍部の反フランス強硬路線により、10年近く駐留していたフランス軍が撤退を余儀なくされた。その後もニジェール国内で欧米諸国への嫌悪感は高まり、数千人のデモ隊が米軍の撤退を求めていた。

2024年3月、米国の上級代表団はニジェールを訪問したものの、当局との対話は決裂に終わり、ニジェールはその直後に、米国の駐留は違法として米国との軍事協定を直ちに撤回するとする声明を発表した。米軍関係者によると、その後も関係修復が働きかけられてきたが、ニジェールは米国との安全保障面の協力は不可能だと明言した。

米・フランス軍が撤退を強いられる中、ニジェールは、軍政を敷く隣国のマリやブルキナファソのように、ロシア寄りの姿勢を強めている。2024年1月、ロシアとニジェールは軍事協力強化に合意し、100人のロシア軍教官と新しい防空システムがニジェールへ導入された。3月には、ニジェール軍事政権のトップのアブドゥラハマネ・チアニ将軍がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話で会談し、現在直面している「脅威」への対応に向け、安全保障協力の強化について意見交換した。4月10日にはロシア軍教官が首都ニアメを訪問し、ロシアとの新たな安全保障協力の一環として、ロシア製軍事装備が導入され、12日にはロシア国防省傘下の「アフリカ部隊(Africa Corps)」が首都ニアメに到着した。ニジェールのメディアは、ロシアが今後ニジェールに軍事装備品を提供し、領空確保に向け対空防衛システムを設置すると報じている。

そのほか、4月12日にニジェールと中国国営石油大手の中国石油天然ガス集団(CNPC)との間で、アガデム油田プロジェクトの商業化に向けた4億ドル相当の覚書が締結されるなど、同国の経済社会開発を牽引する石油産業で、中国企業との新たな動きがみられた。

クーデターにより政権を掌握したマリ、ブルキナファソ、ニジェールの軍事政権は、ロシアや中国など新たなパートナーと軍事的・経済的に接近している。米国によるニジェールへの軍事支援が終了すれば、ロシアとそのアフリカ部隊に道を開くことになる。国際テロ組織の脅威が高まる中、米国のプレゼンス低下により、同地域の治安が一層悪化するのではないかと懸念される。

(藤本海香子)

(ニジェール、米国、ロシア、中国)

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