アルゼンチン政府、税制改革法案を国会に提出

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2024年04月24日

アルゼンチン政府は4月17日、税制改革法案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を国会に提出した。同法案は、個人所得税、個人(固定)資産税、無申告資産の正規化制度などについて規定している。まず、個人所得税の非課税下限額(額面給与)を単身者の場合は180万ペソ、子供のいる夫婦の場合は総額220万ペソに設定し、2025年からは毎年の消費者物価指数(CPI)上昇率で下限額を調整するとした。次に個人資産税は、最高税率を2.25%から0.45%に引き下げる。無申告の資産については、最大15%の税金を支払うことでこれを正規化できるとともに、この制度の受益者は、民事訴訟や過去の租税、為替、関税の違反行為の罰則から免除される。

同法案は、2023年12月27日に下院に提出・審議された「アルゼンチン人の自由のための基盤および出発点に関する法律」(通称:オムニバス法)から税制改革の部分を取り出し、個別の法案としたものだ。オムニバス法案自体は2024年2月2日、前述の税制改革に関する部分を削除するなどの修正を経て、法案全体は可決されたが、個別条文の審議が難航した結果、2月6日に委員会に差し戻されることとなった。

5月末を目標に新オムニバス法案と税制改革法案の国会承認を目指す

ハビエル・ミレイ大統領は3月1日、通常国会の開始に先立って、州知事に5月協定の締結を呼び掛けた。この協定は、アルゼンチンを自由市場モデルへと移行させるために必要だとミレイ大統領が考える税制改革、労働市場改革、貿易自由化など10項目について、州知事と合意し、革命記念日である5月25日に署名を目指すとしたもの。ミレイ大統領は、署名の前提条件として、新たなオムニバス法案と税制改革法案の国会承認を掲げ、ギジェルモ・フランコス内相らが中心となって、州知事らと法案の内容を巡る交渉が続けられてきた。5月協定自体は、政府と州知事の間の基本合意に過ぎないが、地方選出の国会議員に影響力がある州知事がこれに署名しなければ、州知事は、ミレイ大統領が主張する「カースト(La Casta)対国民」の構図(注)におけるカースト側とみなされ、国民の批判を浴びるリスクがあると指摘するアナリストもいる。

政府は、アルゼンチンは世界で最も税負担率が高い国の1つで、多くの歪曲(わいきょく)的な税金の存在が個人や企業による租税回避につながり、過去数十年にわたって徴税に大きな打撃を与え、国家の財政危機を悪化させてきたとしている。そして、現在の深刻な経済・財政危機を脱するには、公共支出の削減と徴税の改善の2つの基本的な柱に頼らざるを得ず、今回の税制改革法案により徴税の改善を目指すとしている。

新たなオムニバス法案については、国会への提出に向け、政府は野党勢力との最終調整を引き続き行っている。

(注)ミレイ大統領はオムニバス法案が委員会に差し戻された翌日の2月7日、自身のX(旧ツイッター)に「LA CASTA CONTRA EL PUEBLO(カースト対国民)」と題した投稿をポストした。同投稿内でミレイ大統領は、国民によって支持された自身の改革(オムニバス法案)に反対する勢力(政治家)を「La casta(カースト)」と表現し、国民に説明責任を果たすべきだと批判した。

(西澤裕介)

(アルゼンチン)

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