ドイツ政府が産業の脱炭素化に関する新たな支援枠組み「気候保護契約」の初入札を開始

(ドイツ)

ベルリン発

2024年03月18日

ドイツ経済・気候保護省は3月12日、産業の脱炭素化に関する新たな支援枠組みである「気候保護契約(Climate Protection Contracts)」の初入札を開始した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。本支援措置は、炭素差額決済(Carbon Contracts for Difference、CCfD)の仕組みを活用し、工場の脱炭素化の取り組みに係るCAPEX(資本的支出)およびOPEX(事業運営費)の追加費用を補助するもの。

具体的には、グリーンまたは低炭素の水素(メタン、アンモニア、メタノール、合成燃料などの水素派生物を含む)やバイオマス、二酸化炭素(CO2)の回収・有効利用・貯留(CCUS)の活用によって脱炭素化を図ろうとする工場に対して、費用対効果や温室効果ガス(GHG)排出削減量といった評価項目に基づく入札を経て、次のとおり15年間の支援を行う(添付資料図参照)。

  1. 申請企業は、従来の工場から脱炭素化を図る工場への転換について、そのCAPEXおよびOPEXの追加費用を踏まえて経済合理的になるために必要なCO2価格を入札。
  2. 基準価格は実際のエネルギーの市場価格などを踏まえて毎年調整。
  3. 基準価格と実効炭素価格の差額と、実際に削減されたCO2排出量を掛け合わせて政府から企業への補助額(または国庫納付額)を毎年計算し、支払い。
  4. 当面の間は基準価格が実効炭素価格を上回るため、政府は企業に対して補助を実施。
  5. 将来的に基準価格が実効炭素価格を下回った場合には、企業は政府に対して国庫納付を実施。

支援対象となる工場は、EU排出量取引制度(EU ETS)の対象、かつ年間GHG排出量が1万トン(CO2換算)以上のもので、製紙、ガラス、鉄鋼、化学といったエネルギー多消費型産業が想定されている。また、操業開始後3年目までにGHG排出削減率60%、契約期間15年間の満了までにGHG排出削減率90%を達成することなどが支援の要件となる。

今回の入札の公募期間は4カ月間だが、今後も2024年中に追加で1回(2024年秋を予定)、2025年に2回の入札が行われる予定。予算額は今回の入札にかかるものだけで40億ユーロで、今後の入札を含む合計で数百億ユーロが想定されている。

経済・気候保護省は、2045年までの支援期間全体で約3億5,000万トン、つまり2030年の産業部門のCO2排出削減目標の3分の1強に相当する年間最大2,000万トンのCO2排出が削減されるとする。

産業の脱炭素化に向けた新たな支援枠組みとしてCCfDが徐々に拡大

今回の支援措置と同じくCCfDの仕組みを活用した支援措置は、これまでもオランダ(Dutch SDE++)や英国(UK Industrial CCS Contract)、デンマーク(Danish CCUS Fund)で実施されており、フランスなどでも同様の措置が検討されている。

さらにEU全体でも、産業の脱炭素化に対する支援としてCCfDの仕組みを活用することが検討されている。例えば2024年2月に欧州委員会が発表した、2040年までにGHG排出量を1990年比で90%削減するよう勧告する政策文書(2024年2月14日記事参照)では、エネルギー多消費型産業の脱炭素化の取り組みに対する支援措置としてCCfDの役割が強調されている。CCfDの仕組みを活用した支援措置の今後の広がりが注目される。

(日原正視)

(ドイツ)

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