メキシコ政府、連邦司法府の信託を廃止、司法への介入に批判が集まる

(メキシコ)

メキシコ発

2023年11月06日

メキシコ政府は10月27日、連邦官報において連邦司法組織法224条の改正令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布し、裁判所職員の年金や福利厚生、連邦司法府関連施設の修繕費や建設費、関連出版物の販売などに充てる信託を最長120営業日以内に廃止する。対象となるのは、最高裁判所(SCJN)、連邦裁判官審議会(CJF)、高等管区裁判所および初等地区裁判所、選挙裁判所(TEPJF)などに関連する13の信託で、その合計額は約150億ペソ(約1,260億円、1ペソ=約8.4円)に上るといわれている。

今回廃止される信託は、国家開発計画の完遂のために国庫(大蔵公債省)へ吸収される。改正法案は、10月15日に下院で賛成259票、反対205票、棄権1で、10月25日に上院で賛成67票、反対48票で可決されていた。

与党・国家再生運動(MORENA)を筆頭とする賛成派は、信託廃止は公的資源における管理の透明性や効率性、緊縮財政(注1)を強化するためとしており、廃止によって裁判所の労働者に影響を与えることはないと強調していた。

最高司法裁判所は10月11日にプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、「信託に関する情報は公開されており、透明性があり、知りたい人は誰でも参照できる」と強調、管理の透明性に対する批判に反論している。同プレスリリースではさらに、「連邦司法府(PJF)の従業員のうち60%以上は、信託に関連する労働給付金の受益者で、信託の消滅は司法府であるPJF独自の運営権限を行政府および立法府が制限することを意味する。司法府の運営権限を制限することは国民の裁判を受ける権利を制限することにもつながりかねず、社会全体に不利益をもたらす」と、今回の措置が不当である点を指摘していた。

野党は、本法令は三権分立の原則に反し、司法府の労働者の労働権を侵害するものだと主張しており、同主張に賛同する与党議員も見られる。MORENAのオルガ・サンチェス・コルデロ上院議員も「行政府と立法府が連携して、司法府の内政に直接介入することは、共和制の国が行うことではない」と非難している(「レフォルマ」紙10月25日)。

経済界からも非難の声、裁判所職員はアンパロを提出

法案の可決について、経済界からも反対や懸念の声が出ている。メキシコ競争力研究所(IMCO)は、下院通過後の10月18日にレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、「連邦司法の権力分立と独立性に影響を及ぼす」とし、「法の支配には強力な司法が不可欠であり政治的干渉や攻撃は抑制と均衡のシステムを侵害し、弱体化させ、経済発展に必要な法的確実性を脅かす」と強調した。また、メキシコ経営者連合会(COPARMEX)は10月26日のプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、「これまでの努力によって、信託に資金を提供してきた4万人の労働者の権利に影響を及ぼす」とし、「今回の決定は、公共の利益といった(聞こえの良い)言葉で問題の本質を見えなくし、司法を弱体化させる目的があり、これは民主主義の後退だ」と懸念を表明した。

10月30日には、761人のPJF職員が信託消滅に対する保護を求め、150億ペソを要求する最初のアンパロ(注2)を提出し、1,400人以上の裁判官がアメリカ大陸人権裁判所(ColDH)にも提訴した(「レフォルマ」紙10月30日)。

(注1)現政権下では、汚職撲滅および緊縮財政を敷くことで、財政収支の均衡を保ちつつ、財源確保を目指している。また、公務員の給与削減も進めてきたが、専門性を理由に給与削減の対象から逃れていた司法府を問題視していた。

(注2)行政府や立法府、司法府による行為が憲法の定める基本的権利を侵害すると判断される場合、当該行為の差し止めと無効を求める裁判制度。

(阿部眞弘)

(メキシコ)

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