欧州委、ウクライナとの正式なEU加盟交渉の開始を勧告

(EU、ウクライナ、モルドバ、ジョージア、ボスニア・ヘルツェゴビナ)

ブリュッセル発

2023年11月10日

欧州委員会は11月8日、2023年版のEU拡大に関する政策文書を発表し、ウクライナとのEU加盟交渉の開始を勧告した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ウクライナは2022年2月にEUへの加盟を申請し、同年6月に加盟候補国の認定を受けており(2022年6月28日記事参照)、異例の速さで加盟プロセス(注)が進んでいる。欧州委による勧告を受けたことで、2023年12月に予定される欧州理事会(EU首脳会議)において全会一致で承認を得られれば、ウクライナとの正式な加盟交渉の開始に向けた道筋がつくことになる。ただし、正式な加盟交渉が開始された場合でも、欧州委は、EU加盟は加盟候補国による加盟に向けた改革などの取り組み次第であるとの原則をあらためて強調していることから、加盟実現までには長期間にわたる加盟交渉が予想される。

欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、欧州委が2022年6月に発表した意見書で提示した加盟交渉開始に向けた条件のうち、ウクライナは9割以上を完了していると評価。特に司法分野、汚職対策、マネーロンダリング対策、新興財閥(オリガルヒ)対策、メディア法、少数派の保護などで成果が見られ、残りの改革についても既に着手されているとした。こうしたことから、欧州委は、欧州理事会に対して、ウクライナとの交渉開始を勧告。また、ウクライナの残りの改革が完了した段階で、EU理事会(閣僚理事会)は、正式な加盟交渉を開始すべく、加盟交渉の基礎となる交渉枠組みについても採択すべきと勧告した。欧州委は、2024年3月までにウクライナの改革の実施状況をEU理事会に報告するとしている。

欧州委は、2022年3月に加盟申請したモルドバとジョージアにも言及。ウクライナ同様に2022年6月に加盟候補国となったモルドバに関しても、加盟交渉の開始を勧告した。他方、2022年6月の段階で加盟候補国の認定が保留されていたジョージアについては、同国が重要な改革をさらに進めるとの条件付きで、加盟候補国の認定を勧告。このほか、2022年12月に加盟候補国の認定を受けたボスニア・ヘルツェゴビナに関しても、加盟基準へのさらなる順守を条件に加盟交渉の開始を勧告した。

フォン・デア・ライエン委員長は、EUのこれまでの拡大は、新規加盟国とEUの双方に経済面・安全保障面で多大な利益をもたらしており、EUの東方拡大を完了することは、「歴史上の要請」だと述べるなど、EUの東方拡大の重要性をあらためて強調した。一方で、加盟候補国の加盟実現には、加盟候補国側の加盟条件を満たすための厳しい改革の実施に加えて、ここにきてEU側でも新規加盟の受け入れに先立ってEU自体の機構改革が必要であるとの議論が本格化しており(2023年10月10日記事参照)、加盟に向けたハードルはむしろ上がっている。こうしたことから、いずれの加盟候補国についても、加盟実現の具体的な見通しは立っていない。

(注)EU加盟プロセスや加盟条件などの詳細は、2022年5月19日付地域・分析レポート「ウクライナは、EUに加盟できるのか」を参照。

(吉沼啓介)

(EU、ウクライナ、モルドバ、ジョージア、ボスニア・ヘルツェゴビナ)

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