ドイツの不況やインフレの影響で中・東欧の経済が減速

(中・東欧、西バルカン、ロシア、ウクライナ、ドイツ)

ウィーン発

2023年10月19日

ウィーン比較経済研究所(WIIW)は10月11日、中・東欧と西バルカン諸国の秋季経済予測を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。対象となる各国はこれまで、ロシアによるウクライナ侵攻による経済打撃に対し、回復力を発揮したが、ドイツの不況、世界経済の低迷、継続する高インフレ、金融政策の引き締めと不十分な財政政策によって、経済成長への圧力が高まっている。実質GDP成長率は2023年第1四半期にすでに鈍化したが、第2四半期には、特にドイツと緊密な経済関係のあるポーランド、チェコ、ハンガリーはマイナス成長に転じた。WIIWのエコノミスト、ブランコ・ヨバノビッチ氏は「ユーロ圏全体が不況に陥る場合、マイナス成長の傾向がさらに強まる可能性がある」と指摘した。そのため、WIIWは中・東欧EU加盟11カ国の2023年のGDP成長率の予測を、夏季経済予測(2023年7月10日記事参照)の1.2%から0.6%に下方修正した。ヨバノビッチ氏は「ここ数年、EU加盟11カ国の経済成長率は西欧を上回ったが、少なくとも当分の間、その差はなくなる可能性がある」と述べている。

ルーマニアとクロアチアは例外的に2.5%と堅調に伸びる見通しだ。というのも、新型コロナ禍後の復興基金「次世代のEU(NGEU)」が成長を支えるためだ。西バルカン6カ国のGDP成長率の平均も2.1%になる見通しだ(添付資料表参照)。

2024年の中・東欧EU加盟11カ国の実質GDP成長率の予測は2.5%とやや楽観的だ。WIIWはNGEUからの大型融資が成長の追い風になるとする。一方で、ヨバノビッチ氏は「ユーロ圏の深刻な不況、高インフレ、ウクライナ戦争の激化、EUと中国の通商摩擦の深刻化が景気回復を危うくする」と強調し、中期的にはスタグフレーションのシナリオも非現実的ではないとした。

WIIWは、対象各国のほとんどでインフレのピークは過ぎたが、当分の間、高い水準にとどまると予測した。インフレの主な要因である食料品価格の高騰は社会問題となっている。一方、当該地域の企業利益は歴史的高水準に達し、実質賃金もしばらくぶりに上昇しているが、企業がこれ以上の製品価格引き上げで対応した場合、インフレはさらに悪化する可能性があると指摘した。

ロシアの実質GDP成長率は、通貨ルーブル安や西側の経済制裁にもかかわらず、2023年に2.3%になると予測。軍事支出の大幅な増加により兵器産業が好況なのに加え、人手不足のために実質賃金も上昇しているため、景気が上向いているとした。

ウクライナ経済も、ロシア侵攻に対し予想以上の耐久力を発揮し、WIIWは2023年の同国の実質GDP成長率を3.6%と予測した。ロシアの黒海封鎖やドナウ川沿いの穀物貯蔵施設の空爆にもかかわらず、同国の農業品の輸出は7月から8月にかけて16%拡大した。WIIWのウクライナ専門家のオルガ・ピンデュク氏は「ポーランドとハンガリーによるウクライナ産穀物の輸入禁止は、ウクライナ支援に関してのEU各国の分裂の兆候だ。防衛支出の高騰により、2023年のウクライナの財政赤字はGDP比で27%まで拡大するため、西側諸国による支援削減はウクライナに破滅的な影響を与える」と警告している。

(エッカート・デアシュミット)

(中・東欧、西バルカン、ロシア、ウクライナ、ドイツ)

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