2023年経済予測をマイナス成長に下方修正、グリーン投資で「欧州の病人」化を回避できるか

(ドイツ)

ベルリン発

2023年10月11日

ドイツの主要経済研究所(注1)は9月28日、秋季合同経済予測PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を公表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。2023年の実質GDP成長率はマイナス0.6%と、4月の春季予測(2023年4月10日記事参照)から0.9ポイントの下方修正となった。2024年は、春季予測から0.2ポイントの小幅な下方修正となる1.3%のプラス成長とした(添付資料表参照)。

ハレ経済研究所(IWH)のオリバー・ホルテミュラー副所長は、下方修正の「最も重要な要因は、産業と個人消費の回復が春季予測よりも遅れていること」と語る。秋季予測では、エネルギー価格の高騰による化学などのエネルギー多消費産業の生産停滞のほか、中国をはじめとする世界経済の悪化による輸出の不振がある、と現状を分析。また、長引くインフレによる購買力の低下や貯蓄志向の高まりなどの結果、個人消費も減少し、さらに、ドイツ政府のエネルギー転換関連の政策が不確実性をもたらしていると説明したほか、長期的リスクとして極端な政治的考えを持つグループの台頭も指摘した。

一方、エネルギー価格が大幅に下落している影響で実質賃金は上昇しつつあり、家計の購買力が回復に向かっていく。加えて、原材料の供給逼迫が解消されれば、緩やかに経済は回復していくと予測する。

ドイツはグリーン投資による成長を推進

足元の低調な経済指標を踏まえて、ドイツは再び「欧州の病人」に陥るのかとの議論が報道をにぎわせている(2023年9月8日記事参照)。この議論については賛否両論あるが、短期的な景気動向よりも重要なことは、現在のドイツがさまざまな構造的課題に一挙に直面していることだ。

ドイツでは、熟練・専門労働者の不足、インフラの老朽化、煩雑な行政手続などの問題が長らく指摘されてきたが、これらへの対応が各国の産業政策競争も相まって待ったなしとなっている。また、ロシアのウクライナ侵攻後には特定国への過度な依存のリスクも顕在化した。こうした状況に対し、ドイツ政府は、液化天然ガス(LNG)輸入開始などによるロシアへのエネルギー依存からの脱却、専門人材移民法の改正による移民受け入れの促進、中国戦略策定による中国からのデリスキングの推進(2023年9月4日付地域・分析レポート参照)などの措置を矢継ぎ早に講じている。

そして、最も重要なのがグリーン投資による成長の実現だ。EU全体でもグリーンディールを掲げているが、EUの気候中立達成目標より5年早い2045年が目標期限のドイツは、アンゲラ・メルケル前政権での取り組みの遅れを取り戻すべく、積極的にグリーン投資を推進している。直近では2023年8月に、気候・変革基金(KFT)から2024~2027年に総額2,118億ユーロを支出する計画や、成長機会法案を策定し2028年までの総額320億ユーロの減税計画を発表するなど、大規模な公的支援を行う方向性を打ち出している。

こうしたグリーン化の取り組みには、短期間での急激な負担増への批判も少なくなく、例えば2023年9月29日に成立した化石燃料暖房からの転換を図る改正建築物エネルギー法は、その審議で大きな混乱があった。それでも、世論の半数近くは現行ペースを維持、または加速すべきとしている(注2)。また、企業の負担軽減のため、エネルギー多消費産業を対象に安価な電力供給を中期的に支援する「産業向け橋渡し電力価格」や、工場などでのグリーン投資に炭素差金決済(Carbon Contracts for Difference)を提供する「気候保護契約」などのさらなる措置も検討されている。

他国よりも一歩先に気候中立達成を目指すドイツが、いかに国民の負担を抑えつつグリーン投資を推進するのか、引き続き注目される。

(注1)主要経済研究所とは、ドイツ経済研究所(DIW)、ifo経済研究所、キール世界経済研究所(IfW)、ハレ経済研究所(IWH)、ライプニッツ経済研究所(RWI)。

(注2)「シュピーゲル」誌が2023年5月25日に発表した世論調査。同調査は調査会社Civeyが5月23~24日に実施。

(日原正視)

(ドイツ)

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