2023年世界貿易量は前年比0.8%増と予測、サプライチェーン分断化の兆し指摘、WTO発表
(世界)
調査部国際経済課
2023年10月18日
WTOは10月5日、最新の世界貿易見通し(10月更新版)を発表し、2023年の世界貿易量(輸出入平均)の伸びを前年比0.8%増と予測した(添付資料表参照)。前回の4月予測(1.7%増)から半減以下の大幅な下方修正となった。2024年の見通しは前回予測(3.2%増)とほぼ変わらず、3.3%増へ回復する見通しを示した。
WTOによると、2023年は多くの国・地域、幅広い品目群で貿易の鈍化が見られ、とりわけ鉄鋼製品や事務・通信機器、繊維、アパレルなどの鈍化が目立つ。また、貿易鈍化の明確な要因は不明としたが、インフレや高い政策金利、ドル高、地政学的緊張が寄与していると指摘した。2023年後半に向けた伸び率の変化をみると、上半期(1~6月)は前年同期比0.5%減と落ち込んだが、下半期(7~12月)には緩やかに上向くと予測する。見通しに対するリスクとしては、中国での予想以上の景気減退と、先進国のインフレ再燃を挙げる。他方で、インフレが急速に低下すれば、見通しを上回る成長が期待でき、緊縮的な金融政策からの早期脱却も見込めるとした。
2023年の輸出量の伸び(予測値)を地域別にみると、北米が前回見通しから0.3ポイント上方修正の3.6%増と最も高く、CIS(3.0%増)、中東(2.0%増)が続いた。対して、アジア(0.6%増)、欧州(0.4%増)、アフリカ(1.5%減)の伸び率は低調となった。アジアでは前回予測(2.5%増)から1.9ポイント減の大幅な下方修正となったが、2024年には5.1%増と全地域で最も高い伸び率が見込まれる。
WTOは今回の見通しで、サプライチェーン分断化の兆しを指摘。それが2024年の相対的に好調な見通しを脅かすリスクがあると警鐘を鳴らす。例えば、グローバルサプライチェーン活動の指標の1つの世界貿易全体に占める中間財貿易比率が2023年上半期に48.5%となり、過去3年間の平均51.0%を下回った点を挙げた。ラルフ・オッサチーフエコノミストは「より広範な脱グローバリゼーションは始まってはいない」と述べつつ、「短期的にはサプライチェーンの広がりは頭打ちになるだろう」として、2024年の世界貿易の回復予測の不安要素を指摘した。
ンゴジ・オコンジョ=イウェアラWTO事務局長は「2023年の世界貿易の鈍化は世界中の人々の生活に悪影響を及ぼす」として、WTO加盟国に対して「保護主義を回避し、より弾力性があり包括的な世界経済を育成することで、世界貿易の枠組みを強化する機会を捉えなければならない」と提言した。
(田中麻理)
(世界)
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