米USTR、矢崎グループ工場での労働権侵害の疑いでメキシコ政府に確認要請

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年08月08日

米国通商代表部(USTR)は87日、矢崎グループがメキシコ中部グアナファト州で操業する自動車部品工場(当該工場)で労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。RRMの手続きは、USMCA加盟国政府が独自に発動できるが、労働組合などの第三者機関が加盟国政府に労働権侵害を提訴することも可能だ。今回はメキシコの労働組合、カサ・オブレラ・デル・バヒオ(COB)から提訴を受けたとしている。矢崎グループの同工場で331日に行われた労働協約の適法化(注)のための投票で多くの不正が行われ、労働者の団結権と団体交渉権が侵害された疑いがあるとの理由に基づく。COB2019年にメキシコのゼネラルモーターズ(GM)の労働者が結成した新興労組で、グアナファト州シラオ市に本拠を置く。地域の労働者に対する普及啓発活動などに取り組んでおり、RRMが初めて利用されたグアナファト州シラオ市のGM工場での案件にも関与していたとされる(2021年9月24日記事参照)。

事実確認の要請を受けたメキシコ政府はUSMCAに基づき、調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。また、今回のUSTRによる確認要請をもって、米国は当該工場からの製品輸入について、両国間で労働権侵害の解消に合意するまで、最終的な税関での精算を留保できる。実際、キャサリン・タイUSTR代表は財務長官に対し、当該工場からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示した。

米国は特に2023年に入ってからRRM手続きを多数発動しており、今回で既に7件目、USMCA発効からは合計で12件目の発動となる(添付資料参照)。また、日系企業が関係する案件では、既に解決済みのパナソニック・オートモーティブ・システムズのメキシコ工場の案件に続き2件目となる。メキシコ政府はこれまで米国から確認要請を受けた案件のほぼ全てで、問題の迅速な解決に向けて米国政府に協力してきた。しかし最近は、案件によってはRRMを利用する適格性を欠くものもあるとして、米国政府の運用に懸念を表明している。実際に、メキシコ鉱山開発最大手グルーポ・メヒコがメキシコのサカテカス州に所有する鉱山での労働権侵害の疑いについては、USMCA発効前に発生した事案で、かつ銅鉱山から米国への輸出はないとして、USMCAの対象外と結論付けている(2023年8月2日記事参照)。メキシコ政府が今回の件にどう反応するか注目される。

(注)201951日付官報で公布した連邦労働法の改正で盛り込まれた手続きで、雇用主が労働組合との間で同日以前に締結した既存の労働協約の内容について、職場の労働者の過半数の賛成を経て再承認するプロセス(2019年8月5日記事参照)。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

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