EUメルコスールFTAの早期締結に暗雲か、アルゼンチン政府に慎重論

(アルゼンチン、メルコスール、EU)

ブエノスアイレス発

2023年07月06日

メルコスール加盟国の外相、経済相らによる第62回共同市場審議会(CMC)が7月3日、アルゼンチンのミシオネス州プエルト・イグアスで開催された。

同審議会でアルゼンチン外務省は、EUとの自由貿易協定(FTA)については時間をかけて現在の国際シナリオに合ったものに見直すべきと主張した。また、同国のセルヒオ・マッサ経済相は、域内の現地通貨建て決済システム(SML)協定の強化を急ぐべきと主張する考えを示した。ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は当初、EUとのFTAの早期締結を目指していた。だが、EUとの間で進行が難航する要因の1つとして挙げられている環境分野について、同大統領は、EUが提示した環境分野のサイドレター文案に難色を示している。

アルゼンチン外務省によると、CMCで同国のサンティアゴ・カフィエロ外相はメルコスールとEUのFTAについて、「紛争と不確実性が高まる国際情勢の中、メルコスールとEUの関係を深化することは必要な政治的シグナルだ。この協定は、メルコスールが世界的な生産と労働の再編に参加する有効な手段だ」「この協定は従来型および再生可能なエネルギー、鉱業、食料、知識集約型サービス、健康など戦略的分野への投資を促進する枠組みとしても機能する」と述べてその重要性は認めたものの、いまだ未署名の協定文は現在の国際シナリオに対応しておらず、見直しが必要だとした。7月3日付のアルゼンチン現地紙「インフォバエ」(電子版)は、EUとのFTA協定文見直しに関する交渉の進捗状況について、アルゼンチンのセシリア・トデスカ・ボッコ外務副大臣の発言を伝えており、メルコスール加盟各国が個別に協定文の見直し作業を進めており、見直しは時間をかけて行うべきとしている。

同じくCMCに出席したアルゼンチンのマッサ経済相は、メルコスール加盟国は域内貿易を強化し、域内経済を外的ショックから守るために加盟国間の自国通貨協定の強化が必要と主張した。加盟各国の中央銀行が相互に結んでいるSML協定の強化を指しているとみられる。SMLは、協定締結国の輸出入企業が貿易代金を現地通貨で支払い受け取ることができる仕組みだ。締結国企業の輸出入代金の合計額をSMLレートと呼ばれる現地通貨とドルの交換レートを用いてドル換算して相殺し、差額を両国の中銀間で精算する仕組みだ。差額はドルで精算されるため、ドルが介在しない決済手段ではない。SMLレートは、インターバンクレートを基に算出されているため、送金コストが低減されるメリットがあるが、利用実績は少ないのが実情だ。今回のCMCで、アルゼンチンとウルグアイの中銀は両中銀間のSML協定を見直すための基本合意書(LOI)に署名した。これまでSML決済の対象となっていたのは財貿易とそれに係るサービスに限定されていたが、サービス貿易や家族送金もその対象に加える。

(西澤裕介)

(アルゼンチン、メルコスール、EU)

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