ビンファストがSPACとの合併を発表、米国で上場目指す

(ベトナム、米国)

ハノイ発

2023年05月23日

ベトナムの大手複合企業ビングループ傘下で、電気自動車(EV)メーカーのビンファストは5月12日、米国ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場する特別買収目的会社(SPAC、注1)のブラック・スペード・アクイジション(以下ブラック・スペード、注2)との合併を通じ、米国市場での上場を目指すことを発表した。ビンファストによると、米国の規制当局の承認後、2023年下半期に合併の手続きと上場が実現する見通しで、合併会社の企業価値は270億ドルにおよぶという。新会社の発行済み株式の99%は、ビンファストの既存株主が保有することになる。

ビンファストは、世界での事業拡大に向けて米国での新規株式公開(IPO)を目指しており、2022年末には新興企業の多いナスダック市場に上場申請したことが報じられていた。方針を転換した背景は明らかでないが、IPOが難航するなかで資金調達を急いだ意思決定とみられる。

ビンファストのレ・ティ・トゥ・トゥイ最高経営責任者(CEO)は発表文のなかで、「ブラック・スペードとのパートナーシップと米国での上場により、将来の国際展開に向けた資金調達の道が開かれ、ビングループにとっても重要な成果になる」と述べた。

苦境のなかブランド確立を目指す

ビンファストは2022年、ガソリン車の生産と受注を停止し、経営資源をEVに集中する戦略をとってきた。しかし、巨額の先行投資が膨らむ一方、事業展開は苦戦している。2022年から2023年4月までのベトナム国内でのEVの累計販売台数は約1万2,600台と推計される。個人販売が伸び悩む中、タクシーやリースなどの新規事業に乗り出し、普及の道を模索している(2023年3月30日記事参照)。

また、積極的な欧米市場展開の方針を掲げ、米国ノースカロライナ州で年15万台の生産能力を有す工場建設を進めているが、2023年3月に、稼働予定を当初の2024年7月から2025年に後ろ倒すことを発表している。米国事業の先行きは不透明感が漂う。

今回のブラック・スペードとの発表に先駆け、2023年4月26日にビングループと同グループ創業者で会長のファム・ニャット・ブオン氏が、ビンファストに計25億ドルの資金提供をすることを発表している。ビングループの発表によれば、ブオン氏の提供する10億ドルは個人資産からの寄付金だという。ブオン氏は「国際市場で競争できるナショナルブランドを確立することは極めて難しく、目先の利益を犠牲することさえ必要になる」と声明を出しており、グループ全体でEV事業のサポートを続ける意向だ。

(注1)SPACは特定の事業を持たず、未公開会社や事業を買収することだけを目的とした特別買収目的会社。上場したSPACは、実際の事業を持った未公開企業と合併することで未公開企業の株式を市場に流通させる。2021年にはシンガポールのライドシェア・デリバリーサービス大手グラブもSPACとの合併でナスダックに上場した。

(注2)香港に本社を置くブラック・スペードは、カジノ大手メルコ・インターナショナルを経営するローレンス・ホー会長兼最高責任者(CEO)の資産運用会社。

(萩原遼太朗)

(ベトナム、米国)

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