欧州繊維業界、2022年の貿易赤字の大幅拡大を懸念

(EU)

ブリュッセル発

2023年05月30日

欧州繊維産業連盟(EURATEX)は5月17日、EUの2022年のテキスタイル・衣料品貿易について分析した2023年春季報告書を刊行し、貿易総額が初めて2,000億ユーロを超えたと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。この記録は輸入の急増に起因したもので、一部の原材料や繊維のEU域外への依存度はより高まっており、繊維業界ではEUが目指す「産業競争力の強靭(きょうじん)化」や「戦略的自律性の強化」は実現していないと、危機感をあらわにした。

輸出金額は約670億ユーロで、前年比約13%増だったが、輸出量は約7%減だった。エネルギー価格の高騰や金利の引き上げが主因となり、インフレ率の上昇が続いたことが影響したと分析した。輸入は、特に中国やバングラデシュからの衣料品の輸入が大幅に増え、輸入金額は約36%増の約1,380億ユーロだった。輸出額の伸び以上に輸入が急激に増えた結果、貿易赤字は前年比48%増の約700億ユーロまで膨らんだ。

輸入品の品質と法令順守の監視強化や輸出振興が必要と指摘

欧州委員会は2022年3月、「持続可能な繊維戦略」を発表し、ファストファッションは「時代遅れ」と批判したが(2022年4月4日記事参照)、インフレに伴って消費者の購買力が低下しており、ファストファッションは引き続き根強い人気がある。欧州でも近年大きな話題となっているのが中国の新興企業シーイン(SHEIN)だ。同社は5月11日、アイルランドのダブリンに欧州と中東・アフリカ(EMEA)地域を統括するオフィスを設け、期間限定のポップアップストアの積極的な展開などを通じ、欧州での事業拡大を目指している。一方で、過剰生産や労働環境などへの懸念も報道されている。

こうした状況を踏まえてか、EURATEXは「輸入品の増加は、単一市場で生産地に関わりなく、高品質で持続可能なテキスタイル製品の流通を目指す欧州委の方針を揺らがしかねない」と危惧し、貿易障壁とならない範囲で輸入品の品質や法令順守について一層の監視が必要だと述べた。

同時に、EU企業は高級品やテクニカル・テキスタイル(注)といった分野で世界的優位にあり、輸出力の強化が必要と指摘。EUに対しても、例えば、インドとの自由貿易協定(FTA)交渉で市場アクセス改善や現地企業との公正な競争の担保に焦点を当てるなど、輸出振興支援を求めた。

(注)装飾用ではなく、建築・土木、医療といった産業で使用されるテキスタイル。

(滝澤祥子)

(EU)

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