ペルー南部国境7州に緊急事態宣言、不法移民入国防止と治安維持強化へ

(ペルー、チリ)

リマ発

2023年05月11日

ペルー首相府(PCM)は4月26日、第三国からの不法滞在外国人がチリからぺルーに入国するのを防ぎ、国境地域の治安維持を強化すべく、大統領令第055-2023-PCM号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布した。4月28日以降60日間、同7州(注1)を対象に緊急事態宣言を発令した。併せて、首相府は大統領令第003-2023-IN号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布して移民法の運用を改定した。同改定は、不法入国している外国人と、合法的または人道的に入国している外国人とを区別するのが狙い。外国人は滞在許可書が期限切れでも罰則なしで更新が可能で、6カ月間の申請猶予期間が与えられる。

今回の緊急事態宣言発令は、チリ政府による外国人入国管理の強化策(注2)に対応したもの。チリでの入国管理強化を受け、不法移民の一部がペルー側の国境警備隊の監視をかいくぐって不法にペルーに入国したり、ペルー側の警備隊への暴力行為を働く事態に陥ったりしている。結果的に多くの不法移民がチリと国境を接するペルー南部タクナ州に集結する事態になった。タクナ州のルイス・ラモン・トーレス知事は、不法移民の入国により治安の悪化が深刻化しているとして、ディナ・ボルアルテ大統領に対して国境警備隊の増員を求める公文書を送っていた。これを踏まえて、ボルアルテ大統領は緊急事態宣言で国境警備隊支援のために軍部投入を行うと同時に、武力の行使はあくまでも国際人権法にのっとって行うと強調した。

チリから入国する不法移民の主な国籍はベネズエラとみられている。2017年のベネズエラのハイパーインフレ危機以降、多くのベネズエラ人がペルーやチリなど周辺国へ移民または亡命している。ペルー国家情報統計庁(INEI)によると、2021年時点でペルー国内の公式登録居住外国人(134万7,000人)の87%がベネズエラからの移民や亡命者だという。一方で、公式統計に含まれないベネズエラ人不法移民も多数存在し、その多くが犯罪に手を染めているとも言われている。

今回の第三国からの不法移民問題について、ペルー外務省(RREE)は4月27日、駐ペルーチリ大使を呼び、事前協議なしに同国による外国人入国管理の強化策について正式に抗議している。また、チリから入国を試みる不法移民の集団が両国を結ぶパンアメリカン高速道路を封鎖するといった事態事象も生じているため、両国外務省は4月21日から協議を開始しており、事態の早期解決が待たれている。

(注1)周辺国と国境を接するトゥンベス州、ピウラ州、カハマルカ州、アマソナス州、ロレート州、マドレ・デ・ディオス州、タクナ州の7州が対象。

(注2)チリ国会は4月18日付で、(1)警察による身元調査制限時間(1時間)の撤廃〔従来は制限時間が1時間と短かったため、不法滞在容疑者を入国管理捜査警察(PDI)に移管できずに釈放するケースが生じていた〕、(2)警察による職務質問権の自由化、(3)国境警備に関わる身分調査の強化など不法移民対策の強化を目的とした法案を可決した。

(設楽隆裕)

(ペルー、チリ)

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