与党議員による重要法案の強行採決に野党や経済界から強い批判

(メキシコ)

メキシコ発

2023年05月02日

メキシコ連邦上院の与党議員団は4月28日、20に及ぶ法案について、野党議員の出席がない状況で強行採決し、賛成多数で可決した。法案の多くは行政府が下院に提出したものだが、下院は委員会審議を経ずに4月25~26日にかけて与党連合の賛成多数で強行採決され、上院に送られていた。

上院では、以前から理事会の定員不足で機能不全に陥っている国家情報アクセス院(INAI)の理事任命(注)をまず行うべきだと野党議員団が主張しており、27日にINAIの空席理事1人の任命投票が行われたものの、与党連合の反対多数で否決された。これを受けて、野党議員団は上院の議事堂を占拠し、INAIの理事任命投票を再度行うまではいかなる法案の審議にも応じない構えを見せた。

そこで、与党・国家再生運動(Morena)のアレハンドロ・アルメンタ上院議長を中心に、Morenaや労働党(PT)などの与党連合議員団が上院の旧議事堂に集結し、臨時議事施設と認定した上で強行採決を行った。採決された20の法案については、添付資料を参照。

この強行採決に対し、野党や経済界からは強い批判の声が上がっている。野党第1党の国民行動党(PAN)は30日付でプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出し、法案を読み上げることもなく、議論も行わずに強行採決したのは立法プロセスに反するとし、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領の三権分立を無視した独裁主義の表れであるとともに、「大統領の指示に従うことしか知らない恥知らずの従僕である与党の国会議員が国会を踏みにじった」と強く批判した。PANとしては、今後、最高裁に対して立法プロセス違反を訴えるとしている。

日本の経団連に相当する企業家調整評議会(CCE)も30日、ツイッターの公式アカウントで声明を出し、立法プロセスを尊重せず、対話を優先せず、国にとって重要な議題についての合意を形成するために全ての政治勢力を結集しようとはしない最近の国会の姿勢を批判し、経済界として立法プロセス違反を認めることはできないという立場を明らかにした。CCEは、国の発展と競争力に悪影響を与えず、信頼を付与し、特に中小企業への大きな影響を回避するためにも、客観的に、技術的・法的な根拠を基に、全ての法案を一つずつ分析することを国会議員に強く求めた。

(注)INAIは情報公開を担当する独立自治機関で、国民の情報開示要求に応えて行政府や与党にとって好ましくない内容の情報を開示することもあった。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は以前からINAIについて、「予算を無駄に消費し、国にとって不要な組織」と主張しており、大統領の意向を受けて、上院の与党連合は、憲法上で上院の義務として定められているINAIの理事任命をいっこうに行ってこなかった。INAIの最終意思決定機関である理事会は、7人の定員のうち、現時点で3人の欠員が出ており、理事会を開催するのに必要な5人に達していない。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

ビジネス短信 275839f9ec2273af