患者の個人情報の安全な共有を保証、2023年内に新法導入へ

(シンガポール)

シンガポール発

2023年03月10日

シンガポールのジャニル・プトゥチアリー上級国務相(保健・情報通信担当)は3月3日、患者の個人情報保護を目的とした新法「医療情報法(Health Information Bill)」を、2023年後半に国会に提出すると発表した。新法の導入により、病院や専門医、介護施設など異なる医療機関間で患者の特定の個人情報を安全にやり取りできる環境を整備する。

新法は、(1)医療サービス提供者から患者の特定の健康情報の収集、(2)医療サービス従事者間での特定の健康情報の共有を可能にし、(3)個人情報の収集、活用、開示に当たってサイバー攻撃やデータ保護体制が明記されるとしている。同国では現在、個人情報保護法(PDPA)とサイバーセキュリティー法があり、患者の個人情報も両法の適用対象となる。ただ、患者の個人情報の保護に当たってはより配慮が必要なことから、保健省は現在、個人情報保護委員会(PDPC)とサイバーセキュリティー庁(CSA)や関係者と、情報のどの部分を具体的に保護すべきか検討を進めている。

保健省は2023年7月から、中高年の国民を対象に予防医療イニシアチブ「健康促進SG(Healthier SG)」を開始する予定だ(2023年1月4日記事参照)。まず第1段階として、60歳以上の国民を対象に7月から、任意でかかりつけ医による定期診断を始める。保健省は、かかりつけ医、または病院、専門医、介護施設などの医師が、共通の患者データに基づいて診断ができるよう、電子カルテシステム「国家電子健康記録(NEHR、注)」の運用を拡大する計画だ。オン・イエクン保健相は2022年3月の演説で、医療施設間で患者の情報を共有するに当たりデータ保護を万全なものとするため、新法を導入すると説明していた。

プトゥチアリー上級国務相によると、健康促進SGに参加する診療所は同イニシアチブの開始後1年以内に、NEHRへの情報共有が義務付けられる。同上級国務相は「患者のデータ共有により、(保健省管轄下の)健康推進庁(HPB)や統合ケア庁などの政府機関が、国家プログラムの立案や新たな予防医療プログラムの開始だけでなく、社会的に孤立し、支援を必要とする人に手を差し伸べることもできる」と述べた。

(注)国家電子健康記録(National Electronic Health Records:NEHR)は、「患者1人に共通の健康記録」を目指し、2011年に開始した保健省が保有する国民電子カルテシステム。2022年12月時点で全ての公立医療機関がNEHRにアクセスしているほか、民間のヘルスケア施設(介護施設を含む)の約30%がアクセスしている。

(本田智津絵)

(シンガポール)

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