米下院で税・通商所管の歳入委員会トップに共和党スミス議員
(米国)
ニューヨーク発
2023年01月11日
米国連邦議会下院の共和党の運営委員会は1月9日、税制や通商、医療保険制度などを所管する歳入委員会のトップにジェイソン・スミス議員(ミズーリ州)を選出した。
スミス議員はミズーリ州の家族経営の農家出身の42歳で、2005年から同州議会の議員を務めた後、2013年に連邦下院議員の座に就いて現在に至る。ドナルド・トランプ前大統領を支持するポピュリスト的な政治姿勢とみられている。第118議会で下院議長に選出されたケビン・マッカーシー議員(共和党、カリフォルニア州)にも近いとされており、歳入委員長の有力候補と目されていたバーン・ブキャナン議員(共和党、フロリダ州)らを差し置いて委員長の座を射止めた背景にはそうした人的関係があるとされている。
スミス議員は歳入委員会選出を受けた声明で、「米国民は、バイデン政権が引き起こした危機に対しての責任追及と、ワシントンにおける民主党の一党支配の下で不在だった議会への監視権限を行使することをわれわれに期待している」とし、最初の優先事項は、税収増のための内国歳入庁(IRS)職員の新規雇用を目的とした予算800億ドルの無効化だとした。これは、スティーブ・スカリーズ下院多数党院内総務(共和党、ルイジアナ州)が1月8日に公表した共和党の優先議題のトップにも掲げられていた(2023年1月10日記事参照)。また、スミス議員は「通商政策と税制の双方を活用して、安全保障に不可欠な製品・サービスが米国で米国の労働者によって生み出されるようサプライチェーンの国内回帰・強化を行い、中国のような国に頼らずに食料や医薬品の確保を実現する政策を策定していく」としている。その上で、次の6点に注力していくとした。
- 米国の家族のための雇用増、賃金上昇、財政および医療保険制度の構築に向けて税制を活用していく。
- IRSが政治的動機に基づいて個人の納税情報を漏洩(ろうえい)していることを調査し、議会の監視責任を取り戻すとともに、バイデン政権がIRSを活用して中間層を狙っている取り組みを後退させる。
- 食料、医療品、エネルギーの自立を実現するためにサプライチェーンの国内回帰・強化を行う。
- 米国の労働者の利益を促進するとともに、米国の労働者や雇用創出者を犠牲にして中国を利する不公正な貿易慣行を罰していく。
- 米国のエネルギー自立を再構築し、消費者にとってコストを下げるために国内のエネルギー生産を開放していく。
- 勤労可能な成人を福利厚生から脱却させ、労働に戻ることを促すような政策を強化していく。
スミス議員は、2022年11月に政治紙「ポリティコ」(11月18日)のインタビューを受けた際には、バイデン政権は大統領貿易促進権限(TPA、注)を議会に要求し、英国との包括的な貿易協定を追求すべきなど、市場開放を伴う積極的な貿易交渉を志向する発言をしていたが、今回の声明にはそうした要素は含まれなかった。今後、どのような対外通商政策を打ち出していくか注目される。
(注)法律の形式で議会が政権に付与する権限。議会が設定した交渉目標や議会への報告・通知義務などにのっとって合意された貿易協定について、議会は内容を修正せず、実施法案の賛否のみを審議することを可能とする。直近のTPA法は2021年7月に失効しており、バイデン政権はそれ以降、議会に再付与を求めていない。
(磯部真一)
(米国)
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