欧州ICT業界、次期EU議長国スウェーデンにスキルギャップへの対応強化などを提言

(EU)

ブリュッセル発

2022年12月06日

欧州の情報通信技術(ICT)関連産業団体デジタルヨーロッパは11月29日、同団体の会員団体であるスウェーデンの2団体とともに、2023年上半期のEU理事会(閣僚理事会)議長国スウェーデンに対する政策提言を発表した(デジタルヨーロッパのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

デジタルヨーロッパは、人工知能(AI)規制枠組み法案、データ法案(2022年2月28日記事参照)やサイバー・レジリエンス法案(2022年9月28日記事参照)といったデジタル関連の重要法案の審議が大詰めを迎えることもあり、2030年までの欧州のデジタル化への移行実現にとって、2023年上半期は非常に重要な時期だと位置付けた。デジタルヨーロッパのセシリア・ボーンフェルド・ダール事務局長は、スウェーデンは貿易を重視し、開かれた、グリーンで高度にデジタル化された経済活動を推進する、またEUを代表するテクノロジー企業を複数生み出した国であり、「単一市場の重要性をよく理解している」と述べ、欧州のデジタル戦略の形成に同国の経験が生かされることへの強い期待を示した。その上で、特に、EUのイノベーション企業の成長にとって障壁となる規制をさらに撤廃し、また、スウェーデンがNATOに加盟申請したことから、NATOとも協力しながら、欧州のサイバーセキュリティー強化に官民一体となって取り組むべきだとした。

若年層や女性などのデジタルスキル習得機会の創出や専門家育成の必要性を訴える

デジタルヨーロッパは、議長国としてスウェーデンが取り組むべき優先課題の1つに「スキルギャップへの対応」も挙げた。欧州委員会は10月12日、労働者がグリーンとデジタルへの移行に伴う労働市場の変化に対応できるスキルを身に付け、雇用のミスマッチの解消や欧州企業の競争力強化を目標に、2023年を「欧州スキル・イヤー(European Year of Skills)」とすると発表した(欧州委のプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。デジタルヨーロッパは、こうしたEUの取り組みでもデジタルスキルは最重要事項に位置付けられるべきで、スウェーデンが議長国である間に欧州全域でより多くの事業を行うと同時に、EU加盟国間でも相互協力や事例の共有を進めるべきだと述べた。EUでは、教育機関におけるデジタル能力向上からサイバーセキュリティーの専門家の育成などが求められているとして、公的機関と教育サービス業界を含む企業が団結し、オンデマンドの教育機会やリスキリング・プログラムの提供などを通じて、デジタルスキル・ギャップに対応する必要があるとした。さらに、ICT分野には女性が圧倒的に少ないことを指摘し、加盟国が若年層を含む女性がICTを学ぶ機会の創出などに共同して取り組むべきだとした。

また、AI、IoT(モノのインターネット)、ブロックチェーンといった革新的なデジタル技術を活用して温室効果ガス排出削減に取り組むなど、グリーン化とデジタル化を並行して加速させるべきだと訴えた。例えば、エネルギー部門のデジタル化を進めることで、よりスマートなエネルギー生産、送電と供給を実現し、Eモビリティーや建物のエネルギー効率向上に関連した新たなビジネスを生み出すこともできるとした。加盟国間の連携や、通信技術などの互換性、高速で信頼できる接続性が特に重要であり、EUおよび加盟国がエネルギー移行を進めるにあたり、より野心的な目標設定やデジタル化の推進のために協力する必要があるとした。特に、各国がエネルギー危機対応を急ぐ中、デジタル化関連予算が十分に拠出されない可能性を危惧しながらも、グリーン化・デジタル化にはもはや一刻の猶予もないとして、議長国としてのスウェーデンの手腕やEUの団結を期待するとした。

(滝澤祥子)

(EU)

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