米FRB金融安定報告書、市場の流動性低下による急変動リスクを指摘

(米国)

ニューヨーク発

2022年11月08日

米国連邦準備制度理事会(FRB)は11月4日、半期金融安定報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を公表した。FRBは5月の前回報告書(2022年5月11日記事参照)公表以降、経済見通しは悪化し、金利は上昇し、ロシアや中国などの地政学的なリスクやドル高の影響なども加わって不確実性は高い状況が続いていると指摘した。また、これら内外要因により、金融市場が引き締められ流動性が低下しており、金融市場の安定性に影響を及ぼす可能性があると指摘した。市場で流動性が低下すれば、小さなショックでも価格が乱高下する可能性が増大する。

報告書では、市場関係者ら専門家26人に今後1年程度の米国経済における重大リスクを聴取した。1位は「高インフレおよび金融引き締めの長期化」、2位は「ロシアのウクライナ侵攻」、3位は「市場の流動性の歪(ゆが、ひず)みおよび変動」がランクインした。「市場の流動性の歪みおよび変動」については、今回の調査で初めて出てきた回答であり、報告書では米国債など取引量低下により金融市場の流動性逼迫が高まっていることに言及した。また、住宅市場については「バリュエーションの水準が高く、住宅価格はショックに脆弱(ぜいじゃく)な恐れがある」として警鐘を鳴らした。

FRBは新型コロナ禍に伴う支援策として導入した量的緩和政策によって積み上がったFRBの保有資産について、9月から月950億ドル(米国債など600億ドル、住宅ローン担保証券350億ドル)ペースで縮小を開始している(2022年5月6日記事参照)。この影響や金融引き締めもあって米国債の需給は悪化しており、需給改善などの観点から、ジャネット・イエレン財務長官は、特定の年限の米国債を市場から財務省が買い戻すこともありうる、と言及している(ブルームバーグ10月24日)。

なお、報告書は金融市場でのリスクの高まりを指摘する一方で、高インフレ抑制のため世界的に金融引き締めが進んだものの、米国企業や家計のバランスシートは総じて健全であり、負債など目立った増加はこれまでのところ見受けられないとも指摘している。報告書を取りまとめたラエル・ブレイナードFRB副議長は声明において、「(過去6カ月間において)家計と企業の負債はおおむね安定しており、金利上昇の中でも、全体として負債の返済能力を維持し続けている」との認識を示した。

(宮野慶太)

(米国)

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