進出企業マインド、ロシアとウクライナで明暗

(ウクライナ、ロシア)

欧州ロシアCIS課

2022年11月17日

ロシアのウクライナ侵攻から9カ月となる今日、ロシアではビジネス環境が大きく変化し厳しい状況が続く一方で、ウクライナでは復興需要に商機を見いだそうとする日系企業の動きがあるようだ。ジェトロは11月8日、ウェビナー「現地発、ロシア・ウクライナの最新ビジネス事情―軍事侵攻から9カ月、何が変わったか?―」を開催。モスクワ、サンクトペテルブルク、ワルシャワの3事務所長が現地の状況と今後の見通しについて報告した。

現在、大方の予想に反して低位安定の状況にあるロシア経済だが、グローバル経済から切り離された環境の中で侵攻前の規模に迅速に回復するかは不透明だ。モスクワ事務所の梅津哲也所長によれば、ロシア国内の日常生活における対ロ制裁の影響は感じられず、また経済の落ち込みも当初予想されたほどではない。一方、2022年と2023年の経済成長率はマイナスが予測されている。一部の欧米企業は現地企業への事業譲渡や買い戻し条項付き売却など様々な方法で事業存続を模索する動きもみられるものの、日系企業を含む外国企業の動きは全体として縮小に傾向にある。

ロシアで活動する外資企業の対応はさまざまだが、プレーヤーに変化が見られる。サンクトペテルブルク事務所の島田憲成所長によれば、乗用車製造の分野では日本や欧米の企業が相次いで工場閉鎖や事業売却を表明している一方、ロシアと中国企業のみが生産を続けているほか、イランやインドの企業が商機をうかがっているという。国別でみると、北欧企業は撤退の決定が早かったほか、米国企業は目立たないよう事業継続している企業が多く、欧州企業は会社によって対応が分かれている。ロシアで活動する外国企業は今後、予見可能性が損なわれた現状においてカントリーリスクの再評価をせざるを得ず、また対ロ制裁による産業面への影響にも注視する必要があるだろう。

他方、ウクライナでは、戦争終了後の復興に向けたビジネスチャンスに期待を寄せる企業の動きがあるようだ。ウクライナにおける軍事侵攻による損失額3,490億ドルは、同国GDPの約1.7倍(2022年6月時点)に相当し、住宅や輸送・交通手段のほか、商業・工業、農業への被害が目立ち、土壌汚染も起きている。このような中、2022年の実質GDP成長率はマイナス34.5%、2023年はプラス2%、2024年をプラス5.6%と予想されている〔ウクライナ国立銀行(中央銀行)発表、2022年末に戦争が終結した場合〕。

ワルシャワ事務所の石賀康之所長は「GDP回復は戦争の状況に左右される」としながらも、2022年10月中旬~下旬に在ウクライナ進出日系企業に対して行ったアンケートで今後の事業を「拡大する」と回答した企業が44%と最も多くなったほか、ウクライナの復興や経済再開に「関心がある」と答えた割合が94%に上ったことを紹介。「優れた技術やノウハウを使って日本ならではの貢献ができれば、ビジネスチャンスにつながるのでは」と述べた。

ジェトロページ「ウクライナ情勢に係る各国・地域の見方」も参照のこと。

(菱川奈津子)

(ウクライナ、ロシア)

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