欧州委、「ゼロ汚染」法案発表、医薬品・化粧品製造業者に新たな拡大製造者責任を課す

(EU)

ブリュッセル発

2022年11月02日

欧州委員会は1026日、河川や地下水、大気中の汚染物質の規制強化に向けた複数の法案からなる「汚染ゼロ」政策パッケージを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州委は2050年までの気候中立を目指す「欧州グリーン・ディール」を掲げており、「汚染ゼロ」対策も「欧州グリーン・ディール」で重視する政策分野の1つ。欧州委は、環境汚染は直接的に市民の健康を害しているとして、2050年までに有害な汚染物質のない環境を目指すとしている。

医薬品・化粧品製造業者に微小汚染物質除去の費用負担を義務化

まず、現行の都市下水処理指令を改正する。特に注目されるのが、医薬品と化粧品をEU域内で販売する製造業者に対して、新たな拡大製造者責任を課す点だ。域内の下水に含まれる有害な微小汚染物質(micropollutant)の92%は、医薬品や化粧品から出ていることを問題視。今回発表た改正案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、汚染者負担の原則を適用して、対象となる医薬品、化粧品の製造業者に対して、対象製品から出る微小汚染物質を取り除く費用の負担を義務付ける。また、下水処理は、公的部門でエネルギー消費量が最も多い分野の1つ。そこで、加盟国に対して、下水処理施設で消費するエネルギーをEUの同一加盟国内の下水処理施設内で生産した再生可能エネルギーによって賄うことを段階的に義務付け、2040年までにエネルギー中立の達成を求める。

域内の河川や地下水に含まれる汚染物質に関しては、殺虫剤や工業用化学品などを中心に53の物質が規制対象となっているが、今回発表水中の汚染物質に関する指令の改正案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、新たに25の物質を規制対象に追加する。

汚染物質の規制だけでなく、罰金も強化の方向へ

大気質指令の改正外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、より厳格な汚染物質の制限値を導入する。2050年までの汚染ゼロに向けて、2030年までに達成すべき制限値を設定。この制限値は、最新の科学的知見や技術の進歩に合わせるべく、5年ごとに見直す。具体的には、微小粒子状物質(PM2.5)の年間制限値である現行の1立方メートル当たり25 マイクログラムから、2030年に同10 マイクログラムに引き下げることなどが含まれる。また、汚染物質が規制値を超えているにもかかわらず、EU加盟国が十分な対策を怠った場合などに、被害者への補償を容易にする規定も含まれる。この指令案の対象となるのは主に加盟国だが、この指令案を実施するための加盟国法では企業などが規制を受けることになる。さらに、この指令案は、加盟国に対して、企業による加盟国法違反に関して、企業の売上高に比例した罰金を科すことを求めており、この指令案が採択された場合、加盟国法に基づいて、違反時の罰金が高額になることも予想される。

今回提案された法案はEU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

(吉沼啓介)

(EU)

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