スーパー経済大臣が誕生、権限の大幅強化で経済危機打開へ

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2022年08月08日

アルゼンチンで83日、省庁改編と閣僚交代が行われ、製造業や鉱業、貿易を所管する工業生産・開発省や、農林水産と畜産業を所管する農牧水産省が、財務やエネルギー分野を所管する経済省に統合された。経済相にはセルヒオ・マッサ前下院議長が就任した。

政府は、マルティン・グスマン経済相が辞任した後の経済混乱を収拾し、立て直しを図るべく、与党連合の重要人物の1人のマッサ氏にそのかじ取りを託した。経済政策に大きな権限を持つ「スーパー経済大臣」の誕生に国中の注目が集まった。

74日にグスマン経済相が辞任し、その後任としてシルビナ・バタキス氏が経済相に就任したが、バタキス氏の手腕が不安視されて為替市場は混乱。722日の週には、並行為替レートが急落し、1ドル350ペソの過去最安値を記録した。また、外貨準備高の減少にも歯止めがかからず、中央銀行は矢継ぎ早に資本取引規制を強化した。こうした状況を打開するべく、アルベルト・フェルナンデス大統領は、経済、財政政策の権限を集約し、大物政治家でもあるマッサ氏に委ねることを決断した。

マッサ経済相は83日に記者会見を開き、(1)財政規律、(2)貿易黒字の維持、(3)外貨準備の積み増し、(4)社会包摂を伴う発展の4つの柱で構成する喫緊の対応策について説明した。

財政規律は、基礎的財政収支の赤字をGDP2.5%に抑える目標を堅持し、国家公務員や国営企業の新規採用の凍結、エネルギー補助金の削減、国庫から中央銀行への100億ペソ(約100億円、1ペソ=約1円)の戻し入れなどを行う。貿易黒字の維持では、三角貿易による輸出額の過少申告や輸入額の過大申告への監視と取り締まりを強化するとともに、輸出数量と輸出企業数を増やす融資制度を導入する。外貨準備の積み増しは、水産業や農業、鉱業、その他の産業の輸出を前倒しするスキームを通じて今後60日間で50億ドルの外貨収入を見込み、国際金融機関からの借り入れなどと合わせて外貨準備の積み増しを図る。社会包摂を伴う発展に関しては、所得が5万から15万ペソの労働者を対象に家族手当などの福利厚生を通じて所得改善を図るべく労使に協議を呼び掛ける、協同組合の強化などを通じた社会的弱者の労働市場への復帰を促す支援プログラムの再構築などを掲げた。

84日付の現地紙「アンビト」電子版によると、マッサ経済相の就任について市場は好意的に受け止めているようだ。しかし、政策の方向性は正しいが、各政策の詳細な情報が不足しているとの声も聞かれる。マッサ経済相の手腕に注目が集まっている。

(西澤裕介)

(アルゼンチン)

ビジネス短信 58585305bcbcbaae