ドラギ政権が崩壊、右派政党が急進

(イタリア)

ミラノ発

2022年08月01日

20212月に発足したマリオ・ドラギ政権が7月21日、任期満了前に解散することとなった。連立主要政党である五つ星運動の離反を発端とし、議席を伸ばしたい右派の思惑が重なり、解散へと急速にかじが切られた。総選挙は925日に実施の予定。

エネルギー高騰に対する支援策などを盛り込んだ政令(Decreto Aiuti)に対する信任決議が714日に行われ、ポピュリズム派の五つ星運動が棄権。ドラギ首相は、内閣を維持できないと判断し、翌15日にセルジョ・マッタレッラ大統領に辞意を表明したが、受理されず、議会に委ねられることとなった。上院での20日の内閣信任決議では95票の信任票を集めたものの、五つ星運動および右派のフォルツァ・イタリア(FI)、同盟は棄権した。同結果を受けて首相が再度辞意を示し、大統領が辞任を認めたかたちとなった。

「コリエーレ・デラ・セーラ」紙(721日)によると、五つ星運動離反の原因として、前回の地方選で票を伸ばせなかった同党が巻き返しを図り、廃止が検討されていた失業者向けのベーシックインカムに対する抗議などを盛り込んだ「9つの質問状」を作成。首相による同文書に対する明確な回答がなかったことへの抗議が、五つ星運動の内閣信任決議棄権につながった。

ドラギ首相は欧州中央銀行(ECB)前総裁の経歴を生かし、多額のEU復興基金をイタリアに導いた立役者で、辞意表明により市場にも不安が広がった。720日の段階では209.3ポイントだったイタリア国債とドイツ国債のスプレッド(利回り差)だが、解散が決まった21日に241ポイントへと急拡大した。

左派からも強い反発があった。民主党は最後までドラギ政権の維持を訴え、解散決定後はエンリコ・レッタ党首が、ツイッターや各紙の取材で、五つ星運動との同盟を破棄するコメントを出した。中道右派であるFIでも、党の決定に反対し、主要な政治家が離脱するなど、政党内部の分裂を招いた。

逆に、前回の地方選での勢いに拍車をかけたいがため、五つ星運動の動きに便乗した右派は、極右のイタリアの同胞(FDI)を中心に、存在感を強めている。調査機関デモポリスが72123日に実施した世論調査では、FDI23.5%と支持率トップ、続いて左派の民主党が22.3%を占めるものの、同じく極右派でFDIと同盟関係にある同盟が14.2%を占める。右派が与党となった場合、EUと足並みをそろえてきた対ロシア政策などにも揺らぎが生じる可能性がある。

イタリア産業連盟のカルロ・ボノーミ会長は、729日付「コリエーレ・デラ・セーラ」紙によるインタビューで、20日の上院による内閣信任決議について「政党の無責任さはその日にピークに達し、大いなる不信感を抱いた」と発言。ドラギ首相は在任中に並外れた国際的な信用を得ていたにもかかわらず、内閣信任の議論の中でそうした実績が議論されなかったと産業界からは批判の声が出ている。

五つ星運動と決裂した民主党がどの政党と手を取り合うのか、急進する右派とどう戦うのかが総選挙における焦点となる。

(平川容子)

(イタリア)

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