米国経済の将来展望に不確実性高まる、ダボス会議セッション
(米国、スイス)
米州課
2022年06月02日
スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で5月23日、「米国経済の展望」と題したパネルディスカッションが行われた(注)。米国「ニューヨーク・タイムズ」紙のレベッカ・ブルーメンステイン副編集長を司会進行役に、パット・トゥーミー米上院議員(共和党、ペンシルベニア州)、米ペイパルのダン・シュルマン最高経営責任者(CEO)、米ナスダックのアディーナ・フリードマンCEO、ジェイソン・ファーマン米ハーバード大学教授〔オバマ元政権下の大統領経済諮問委員会(CEA)委員長〕が登壇した。
パネルディスカッションでは、米国経済をめぐり、40年ぶりの記録的な上昇幅で進行するインフレや米連邦準備制度理事会(FRB)による22年ぶりとなる政策金利の大幅引き上げのほか、中央銀行デジタル通貨(CBDC)導入の可能性、ウクライナ情勢とサプライチェーン危機、今後の米国経済の景気後退の可能性など、幅広いテーマについて活発な議論が行われた。
米国経済の展望について、ナスダックのフリードマンCEOは、インフレやFRBの利上げ、労働参加率の低さといった、いわば米国経済にとってネガティブな外的要因はあるものの、米国経済が成長する余地があることを示していると指摘した上で、今後は景気後退のリスクがゼロだとは言わないが、FRBもインフレ抑制のために利上げ措置を講じているため、ある程度の成長鈍化は織り込み済みで、米国はこの状況をなんとか乗り切り、経済成長を続けることができるだろうとして、米国経済の底堅さに期待感を示した。一方で、ファーマン教授は、インフレを考慮した実質賃金の伸びは下がり続けており、米国民は事実上の賃金カットに直面していると指摘した上で、今後もFRBが利上げを続けた上で、なおもインフレの継続により個人消費が徐々に冷え込むようなことがあれば、米国経済が短期的に成長したとしても、中長期的には景気後退のリスクは否めないと、将来的な懸念を示した。
トゥーミー上院議員は、ロシアによるウクライナ侵攻について、米国が同盟国とともに立ち上がることを超党派で示したとした上で、憂慮すべきは食料価格への影響で、今後、場合によっては深刻な問題になり得ると指摘した。また、自身の選出州であるペンシルバニア州に言及し、天然ガス産地の同州にとって欧州向けの輸出が増える可能性があるとの考えを示した。ペイパルのシュルマンCEOは、ウクライナ情勢や中国の新型コロナウイルス対策のロックダウンでサプライチェーンの危機が生じたことに触れ、サプライチェーンをはじめ、新型コロナのパンデミック後に次から次へとやってくる世界的な課題が米国経済の将来展望の不確実性をより大きなものにしているとして、FRBは米国経済を軟着陸させたいのだろうが、どう転ぶのか全く見通しがつかないと述べた。
(注)パネルディスカッションの様子はダボス会議のWEBサイトから視聴可能。英語音声のみ。
(葛西泰介)
(米国、スイス)
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