カナダ中銀の企業経営者・消費者景況感調査、人手不足とサプライチェーン混乱でインフレ懸念高まる
(カナダ)
トロント発
2022年04月12日
カナダ中央銀行は4月4日、企業経営者と消費者に対する景況感調査結果を発表した。政策決定の参考とするために中銀が四半期ごとに実施しているもので、今回の2022年第1四半期(1~3月)の調査では、国内での新型コロナウイルス感染の流行が落ち着きを見せ、経済活動が再開したことによる労働需要の上昇と、ウクライナ危機などによるサプライチェーンの混乱により、企業経営者・消費者双方に物価上昇に対する懸念が高まっていることが明らかとなった。
定例の調査は、企業経営者に対しては2月7日から25日にかけて、消費者には2月2日から22日にかけて行われたが、2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻を受け、3月上旬から中旬にかけて追加調査を実施した。
企業経営者はさらなる需要拡大とコスト上昇を懸念
企業経営者に対する調査では、新型コロナ感染拡大の一定の落ち着きにより、カナダ各地で規制緩和が進んだことを受け、引き合いや受注残高の指標が改善するなど、多くの企業が売り上げ増加を見込んでいることが明らかとなった。一方、売り上げが新型コロナ感染拡大以前のレベルに回復していないとする企業は全体の4分の1に上った。
この半面、需要拡大による経営上のボトルネックを指摘する声も多い。具体的には、労働力不足とサプライチェーンの逼迫・混乱による生産能力への影響と、コスト増加圧力だ。
労働力不足は、規制緩和による経済回復や、新型コロナ感染拡大の影響で国外からの労働力流入が減少したことなどの短期的な要因に加え、人口の高齢化や産業構造の変化(デジタル人材の需要拡大など)による長期的な要因も影響しており、賃金の長期的な上昇傾向を予想する企業も多い。
サプライチェーン逼迫も深刻な問題となっており、これまでの物流分野の人材不足などの要因に加えて、ロシアのウクライナへの侵攻による一層の混乱と、物流コスト上昇を懸念する声が上がっている。新型コロナ感染収束によって落ち着くとみられたサプライチェーンの問題が、ロシアのウクライナ侵攻によって不確実性がさらに増したとみる企業経営者も多い。
経済再開後の消費者の消費意欲は旺盛
消費者に対する調査でも、物流の逼迫やウクライナ情勢の影響による物価上昇を懸念する声が多く、特に食料やガソリンなどの生活必需品に対する支出の増加を予想する回答が多かった。
特に住宅価格については、「自分の住んでいる地域の住宅価格がどのくらい上昇すると考えるか」という質問に対して、回答者の平均での住宅価格上昇率がカナダ全体では7.1%、大都市があるオンタリオ州とブリティッシュコロンビア州ではそれぞれ9.0%と、過去5年間で最高レベルの上昇率となっている。
インフレ率の予想を問う質問には、1年後のインフレ率予想の平均値は前期比0.2ポイント増の5.1%、2年後の予想値は前期比0.5ポイント増の4.6%となった。特に2021年第3四半期(7~9月)以降、短期的に物価の急上昇を予想する回答が増加している。一方で、5年後の予想値は前期比0.3ポイント減の3.2%となり、金利政策などによって中長期的には物価は安定していくと見る消費者が多い。
また、新型コロナ感染の落ち着きに伴ってカナダ各地で経済規制が緩和されていることにより、消費支出を増加させると考える消費者が多くなっている。感染拡大による経済活動規制の時期に消費に回されなかった貯蓄が2022年から2023年にかけて一気に支出されると考えられることから、消費の力強い伸びが続くと予想している。
(斎藤健史)
(カナダ)
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