EIU発表の民主主義指数で大きく後退、経済への影響を懸念する声も

(メキシコ)

メキシコ発

2022年02月15日

英国の調査機関エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が2月9日に発表した2021年民主主義指数外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、メキシコの同指数は前年比0.5ポイント減の5.57となり、順位も世界167カ国中86位と14位後退した。同指数は最低0、最高10の総合ポイントで各国の民主主義の成熟度をランク付けしており、4未満が独裁政治体制、4以上6未満が混合政治体制(独裁の性格と民主主義が混在する制度)、6以上8未満が欠陥ある民主主義、8以上が完全な民主主義と分類される。メキシコは今回2021年に初めて6を切り、混合政治体制の分類に転落した(添付資料図参照)。

同指数は、選挙過程と多元性、政治機能、政治参加、政治文化、人権擁護の5分野でポイント付けして総合指数を出しているが、メキシコは今回、政治文化を除き、全ての分野で後退している(添付資料表参照)。EIUは今回の報告書の中で、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領の行政府に権力を集中させる動き、特に2021年8月に、AMLO政権に抵抗する反対勢力として独立自治機関である国家選挙庁(INE)を批判し、INEの改革に向けた憲法改正を行う意向を示したことを問題視している。また、反対派やマスメディアに対する批判を強め、反対する者の意見を聞こうとしないことを憂慮し、2024年の次期大統領選挙に向けて、メキシコの民主主義がさらに弱体化する可能性を懸念している。

AMLO大統領のメディアに対する批判は、国内でも問題視されており、2月11日には早朝記者会見において、大統領の子息のスキャンダルについて報道した記者を名指しで批判し、同氏が各メディアから2021年に受け取った報酬額を公開し、大統領の給与よりも15倍も高く強欲だと批判した。個人の報酬額を政府が本人の了解もなく公開したことに対して、識者からの批判が殺到し、国家情報アクセス庁(INAI)が同日、同行為は「公的機関の所有する個人情報の保護に関する一般法」に反すると警告し、被害を受けた記者からの提訴に対応する準備があるというプレスリリースPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を出す、異例の事態に発展している。

政治体制への不安が投資家の信頼を毀損

米国のライス大学ベーカー公共政策研究所は2月9日、報告書「メキシコの2022年見通しPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」の中で、「AMLO大統領への権力集中と同氏がもたらす対立構造の助長による政治の不安定性と、独立自治機関の弱体化による規制環境の悪化が投資家の信頼を毀損(きそん)している」と指摘。このことが「メキシコの経済回復を緩慢にさせ、2018年の水準に経済が回復するのは2023年以降になる」という見通しを発表した。大手会計事務所KPMGが2022年1月31日に発表した、2022年のメキシコの経営者向けアンケート調査結果外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますをみても、2022年のメキシコの経済成長のための最大の課題は投資家の信頼感の確保だ、という結果が出ている。

AMLO大統領の早朝記者会見では、メディアや野党政治家だけでなく、個別企業の批判も名指しで行われており、複数のスペイン系企業が過去の政権と癒着してメキシコを搾取してきたという2月9日の発言に対しては、スペインの外務省が翌日に正式に反論外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出すなど、外交問題にも発展している。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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