YKKパキスタン、第3工場建設へ

(パキスタン)

カラチ発

2022年02月28日

ジェトロは2月16日、パキスタン・カラチの輸出加工区(EPZ)で操業するファスナー製造のYKKパキスタンの新井篤社長に、パキスタンのビジネスについて、インタビューした。同社は、好調な業績を背景に第3工場を建設する。現在稼働する第1工場(6,739平方メートル、2007年操業)、第2工場(6,958平方メートル、2012年操業)に加え、第3工場は床面積1万3,320平方メートルの2階建てで、完工後の生産能力はほぼ倍増する。計画は新型コロナウイルス禍で約1年半遅れたが、第2工場の横の敷地を造成し、2022年8月以降に本体工事を開始する。

新井社長は第3工場増設の背景として、(1)2024年まではパキスタン縫製産業が伸びると見込まれること、(2)豊富な労働力、(3)綿花生産、紡績から縫製までの一貫生産の強みがあること、(4)中国パキスタン経済回廊(CPEC)事業を通じたインフラ改善による経済成長を挙げる。

YKKはパキスタンの輸出用繊維製品のファスナー市場でトップブランドとなっている。その一例がジーンズ用メタルファスナーだ。パキスタン産綿花は中繊維綿と呼ばれ、布を織ると厚手の生地となり、ジーンズに適している。もともとジーンズ生産に優位性があった中、米中貿易摩擦や人権問題などによって中国への注文の一部がパキスタンに流れ、新型コロナ感染拡大による経済への影響が周辺国より比較的抑えられたことも追い風となった。米国ウェブメディア『ソーシング・ジャーナル』(2022年1月10日付)によると、2021年1~11月の米国によるパキスタンからのデニム・ジーンズ輸入は前年同期比56.7%増の3億5,692万ドルと大幅な伸びとなった。結果的に、ファスナー需要も押し上げられた。

一貫生産による短納期がパキスタンの強み

国単位で見ると、米国がパキスタン繊維製品の最大の輸出先だが、地域単位では欧州が最大だ。「一貫生産による短納期がパキスタンの強み。縫製メーカーがバイヤー(ブランドホルダー)から受注して製品を完成させるまでの期間は、バングラデシュが60~90日、パキスタンは30~60日。しかも、欧州から物理的に近く、さらに、EUはGSPプラス(注)をパキスタンに適用。(短納期のメリットを生かして)欧州バイヤーはぎりぎりまで売れ筋を見極めた上で発注を掛けられる」と新井社長は強調する。一般工の人件費は、パキスタンは月額158ドルでバングラデシュの115ドルより高いが、インド(261ドル)やトルコ(535ドル)より競争力があると言う。

政府は輸出を後押ししており、2020/2021年度(2020年7月~2021年6月)は繊維製品の輸出実績が144億ドルだったが、政府は翌2021/2022年度の輸出目標を200億ドルとしている。

写真 7年間のカラチ勤務を終えて3月に日本に帰任する新井社長(ジェトロ撮影)

7年間のカラチ勤務を終えて3月に日本に帰任する新井社長(ジェトロ撮影)

(注)EUの一般特恵関税(GSP)の優遇制度。持続可能な開発や人権保障などに関連する一連の国際条約を批准・準拠する低・中低所得国・地域に対して、EUがさらなる特恵措置を付与する制度。GSPより幅広い約6,200品目についてEUの輸入関税が免除される。

(山口和紀)

(パキスタン)

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