欧州委、方向性電磁鋼板のアンチダンピング関税を延長、日本製も対象

(EU、日本)

ブリュッセル発

2022年01月20日

欧州委員会は1月17日、2015年に導入した方向性電磁鋼板(GOES)へのアンチダンピング関税賦課措置を5年間延長すると発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。対象となるのは引き続き、日本、中国、ロシア、米国、韓国の計5カ国からの輸入品で、製品の輸入価格が最低輸入価格を下回った場合のみ21.5~39.0%の関税が賦課される。日本製については、日本製鉄の対象製品に対して35.9%、JFEスチールには39.0%、2社以外の日本企業の製品に対しても同じく39.0%の従価関税を課すとした。

GOESとは、一方向(圧延方向)にのみ極めて優れた磁気特性を有する、鉄鋼製品の中でも特殊な製品だ。欧州鉄鋼連盟(EUROFER)によると、世界で生産しているのは約20の製鉄所だけだ。GOESはその特性から、EUでは風力発電など電力網の維持、拡張に必要な高品質の変圧器、発電機やモーターなどの生産に欠かせないものとなっているが、EU域内でGOESを生産できる製鉄所は4カ所しかない。欧州委はEUROFERの要請を受けて、5年間実施するとしていた関税賦課の延長の必要性について調査。その結果、「措置を継続しなければ、域内産に比べ不当に廉価な輸入品が著しく増加する可能性があり、域内生産者に悪影響を与える」として、延長を決定した。措置はEUの生産者への公平な競争条件の確保と、変圧器などの生産に不可欠な高品質の輸入GOESの安定的な供給とを両立させるものと説明した。この決定に関する実施規則(規則条文外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は1月17日付のEU官報に掲載され、18日に発効した。

GOESは戦略的製品と位置付け、EU生産者は延長歓迎

欧州委の決定を受けて、EUROFERは1月18日に声明を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUROFERは、GOESはEUの鉄鋼セーフガード措置(2021年7月5日記事参照)の対象製品ではないため、アンチダンピング関税賦課措置がある程度の安定と信頼を市場にもたらし、EUの生産者の研究開発の加速や、変圧器などの効率を低下させる要因となる鉄損(注)に関するEU基準を満たす高品質の製品生産が可能になっていたと主張。廉価な輸入品によって、EUの生産者は何年にもわたって実質的な損害を被ってきたが、関税賦課が延長されることになり、EUの生産者はEUのエネルギー効率改善や気候目標の達成に引き続き貢献することができると評価した。EUROFERのアクセル・エッゲルト事務局長は「GOESは戦略的な高性能製品だ。EUは域外製品に依存するわけにはいかない」と措置延長を歓迎した。

(注)モーターや変圧器などの鉄心部分で生じる損失のこと。

(滝澤祥子)

(EU、日本)

ビジネス短信 c50d5db547f84c51