米ニューヨーク州、家賃滞納者の強制退去猶予措置が失効

(米国)

ニューヨーク発

2022年01月20日

米国ニューヨーク(NY)州で1月15日、新型コロナウイルスの影響を考慮して導入していた家賃滞納者への強制退去猶予措置が失効した。この措置は、賃借人が新型コロナウイルスの影響などで家賃を滞納している場合に、家主に対してそれを理由とする強制退去を禁じていた。パンデミック発生直後の2020年3月に知事命令として発出した措置だが、その後も時限立法に形を変えて継続的に実施し、期限が到来するたびに延長してきた。前回延長の際には1月15日までの期限を設定しており、期限直前には再延長を求めるデモなども行われたが、連邦政府で行っていた同様の措置の実施・延長(2021年8月5日記事参照)に対して2021年8月26日に最高裁判所が違憲との判断を示したなどの事情もあり、今回は延長されず失効することとなった。

民間調査機関ナショナル・エクイティ・アトラスによると、NY州は米国で最大の賃貸市場で、2021年10月時点で約59万世帯が家賃を滞納、滞納額は約19億7,000万ドルに上るとしている。こうした世帯が引き続き家賃を滞納した場合、家主から強制退去を求められる可能性がある。キャシー・ホークル州知事は連邦政府が実施している家賃補助プログラムなどを念頭に、賃借人はこうしたプログラムを利用することで強制退去を効果的に回避できると述べている。一方、NY市のエリック・アダムス市長は、米国で最も人口の多い都市で連邦政府からの資金を公平に受け取れていないとし、連邦政府に対して資金をより多く供給するよう求めた(ロイター1月14日)。ホークル知事はカリフォルニア州やニュージャージー州、イリノイ州の知事とともに、財務省に家賃補助資金のさらなる提供を求める書簡を送っている(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版1月14日)。

一部のNY州議会議員の間では、正当な理由なしの強制退去などの措置を禁じる新たな法案など救済措置も模索しているが(ブルームバーグ1月15日)、前述の最高裁の判断もあり、先行きは不透明な状況だ。多くの人が強制退去を求められれば、路上生活者の増加や、犯罪率の増加につながる恐れがある。NY州が1月5日に発表した2022年の政策提案集では、同措置の終了を理由に路上生活者が急増すると懸念し、1月18日に発表した2023年会計年度予算案(2022年4月~2023年3月)でも、連邦政府からの資金などを受けた住宅所有者や賃借人への一連の支援を続ける意向を示しており、今後の議会での予算や法案の審議動向が注目される。

(宮野慶太)

(米国)

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