中銀、2021年GDP成長率予測を4.5%に下方修正、国際観光の回復遅れ響く

(スペイン)

マドリード発

2021年12月28日

スペイン中央銀行は12月17日に発表したマクロ経済予測で、2021年の実質GDP成長率を4.5%と予測外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。9月の前回予測から1.9ポイント減の大幅な下方修正となった(添付資料表参照)。2022年も前回予測から0.4ポイント引き下げて5.4%としており、新型コロナウイルス禍以前の2019年第4四半期(10~12月)の水準への経済回復は2023年初めにずれ込むとみている。

中銀は下方修正の主な要因として、(1)ワクチン普及と規制緩和にもかかわらず、2021年第2(4~6月)、第3四半期(7~9月)の成長率が期待外れに終わったこと、(2)世界的な物流混乱や半導体などの中間財不足、エネルギー価格の高騰によるインフレが続いていること、(3)オミクロン型変異株などによるEUでの新たな感染拡大の影響もあり、第4四半期の成長率が前期比1.6%に鈍化することが予測されることを挙げた。

需要項目別では、2021年の民間最終消費支出は4.3%増と、前回予測の半分以下に引き下げた。同年半ばから国内観光が力強く回復した一方で、サプライチェーンの混乱により、乗用車をはじめとする耐久消費財の需要に供給が対応できない状況が生じている。また、年半ばから顕在化したインフレ高進で購買力も目減りしている。総固定資本形成は3.9%増と、前回予測から2ポイント近く低下した。サプライチェーン混乱やエネルギー価格高騰などによるコスト上昇の影響を受けている上、EU復興基金の執行がまだ本格化していないためだ。2021年のEU復興基金のGDP押し上げ効果は0.3ポイントと限定的とした。

外需は、インバウンド観光が夏以降のワクチン普及により回復に向かっているが、2021年1~10月の累積でみると、国際観光客数と支出額はいずれも2019年同期の3割程度にすぎず、足元では新たな感染波による渡航制限の影響を受けるなど勢いに欠けている。一方で、輸入も急回復しているため、外需寄与度は0.3ポイントにとどまると予測。

中銀は、スペインが他のEU主要国よりも経済回復が遅れている主な理由として、インバウンド観光の回復の遅れや、これを含む外需低調を挙げている。スペインはGDPにおける観光依存度が高い分、2020年の感染拡大当初の景気の落ち込みが顕著だったが、度重なる感染拡大が観光回復の足かせとなっているという。

なお、スペインの12月27日現在の直近14日間の新型コロナウイルス新規感染者数は10万人当たり1,206人と、2020年3月の感染拡大以来最高を記録。フランスやオランダと同様の水準に達したが、全国一律の規制強化は24日以降の屋外でのマスク着用義務の復活のみ。感染者数が急増したカタルーニャ州では、同日から夜間娯楽施設の閉鎖や夜間外出禁止を再導入したが、その他は一部の州が飲食店などでのワクチン接種証明(または回復証明、陰性証明)の提示を義務付けている程度だ。現時点では医療逼迫には至っておらず、景気回復の観点からも大きな規制強化は行われていない。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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