モディ首相、農産物流通促進法など新農業関連法の撤廃表明

(インド)

ニューデリー発

2021年11月24日

インドのナレンドラ・モディ首相は11月19日、2020年9月に成立した農産物流通促進法などの新農業関連法を撤廃すると表明した。これらの法律をめぐっては、1年以上にわたって反対派の農民や仲介業者による抗議デモが続くなど、国内で大きな政治問題と化していた。11月29日から始まる連邦議会で正式な廃止手続きがなされる見込みだ。

撤廃するのは、農産物流通促進法、農民保護・支援・価格保障および農業サービス法、改正基礎物資法の3つの法律だ。農民は従来、農作物を原則として地域ごとの公設市場にしか販売することができなかったが、これら新法成立後は、州外の市場や企業にも自由に売れるようになった。そのため、モディ政権としては、これらの新しい法律によって農民の所得向上が図れると主張していた。しかし、競争の自由化に伴い、政府が農作物の公的価格を決定する「最低支持価格(MSP)」の制度がなくなるのではと危惧する農民や、公設市場の権益を維持したい仲介業者を中心に、2020年11月以降、全国的な抗議デモが発生していた。最高裁判所は2021年1月に、農民の理解を十分に得られていないとして、これらの法律を一時的に停止する措置を講じた。

これまで、インド人民党(BJP)のモディ政権は農業関連法をめぐる反対派の動きに譲歩しない姿勢を貫いていたため、このタイミングでの方針転換は関係者に驚きをもって受け止められている。国内メディアでは、インド最大の穀倉地帯であるパンジャブ州や、BJPが政権を握るウッタル・プラデシュ州などの各州議会選挙が2022年2~3月に予定されていることを見据えた政治判断との見方が専らだ。インドでは農業を含む第一次産業がGDPに占める割合は2割程度だが、全労働人口のうち半数程度が農業従事者で(2021年10月付調査レポート参照)、政治的な影響力が大きい。

首都ニューデリー近郊では、抗議デモ参加者によってデリー準州と隣接州を結ぶ幹線道路が一時封鎖されたり、一部のトラック運転手の組合が抗議デモに加わったりするなど、国内物流にも支障が生じていた。11月現在、一部の幹線道路は引き続きデモ参加者に占拠されているものの、完全封鎖はされておらず、物流への影響は限定的だ。

写真 ラジャスタン州の幹線道路上に作られた抗議デモ参加者の集落(2021年11月、ジェトロ撮影)

ラジャスタン州の幹線道路上に作られた抗議デモ参加者の集落(2021年11月、ジェトロ撮影)

(広木拓)

(インド)

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