スリランカ、化学肥料の輸入禁止を一部解禁へ

(スリランカ)

コロンボ発

2021年10月26日

スリランカ政府は、有機農業の普及を主目的に、5月から発令していた化学肥料の輸入禁止(官報PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)2021年5月6日No.2226/48)を、一部解除し、輸入を許可すると10月19日のプレス会議において発表した。約半年前に輸入が禁止されて以降、農産物の生産性低下の懸念から、スリランカ農業経済協会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますをはじめ小規模茶園主連盟、農業従事者らから方針見直しを求める声や抗議活動が続いていた。このような中、政府は引き続き、肥料の用途や種類によって輸入制限を課しているものの、紅茶の栽培に使用される化学肥料の輸入を一部再開し、急激な有機化を進めることによる農業への悪影響を回避する方針をとった。

ゴタバヤ・ラージャパクサ大統領は有機農業の早急な導入を目指しており、化学肥料の輸入禁止発令以降、化学物質の乱用によって引き起こされる農業従事者への健康被害、これにともなう医療費の上昇を抑えるのに効果があると言及。慢性的な腎臓の病気は、化学肥料を取り扱う農業地域にまん延していると指摘していた。また、肥料の輸入に年間4億ドルが費やされていることから、化学肥料などの輸入を抑えることで、外貨流出が軽減されると示唆していた。

ラージャパクサ大統領は2019年選挙キャンペーン中に打ち出したマニフェストPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)において、有機栽培化の推進を主要政策の1つに掲げており、輸入禁止措置はこのビジョンに基づいた動き。しかし、急激な有機化への方向転換の影響は大きく、「国内産の有機肥料だけでは需要を満たすことができない」(農業関連企業)ことは明らかだった。

10月19日のプレス会議で発言したラメシュ・パティラナ・プランテーション相は、今回の化学肥料の一部輸入解禁は、主に紅茶生産量への影響を考慮し、国内の有機肥料生産が需要を満たせるよう軌道に乗るまでのあくまで暫定的な措置と言及。ラージャパクサ大統領は、かねて「何があろうとも有機栽培化を実現する」という趣旨の発言をしており、有機化は避けて通れない道となる。一方、進出日系企業からは、「コスト・効能・収穫高の面から勘案して、有機への完全移行はほぼ不可能」「当面輸入解禁となった化学肥料を活用しつつ、あわせ有機肥料・バイオ系資材を用いた栽培方法の確立に対応し、有機の新市場を開拓していかねばならない」「今回一部輸入が許可されたが、実際の輸入諸手続きができるか不安」「いずれにしても有機化を視野に入れてバイオ系肥料・農薬のライセンス登録を進めている」などの声が聞かれた。

有機肥料は化学肥料に比べ、効果が非常に低いことが分かっており、有機化の推進による生産性の低下が目下の課題となる。政府は今後、有機化によるメリット(健康被害の低減、肥料を輸入しないことによる外貨流出の抑制など)と、有機化・国内生産肥料の使用に伴うデメリット(農業生産性の低下、コスト増、利益率低下)を、てんびんにかけながら方向性を判断していくことになる。

(糸長真知)

(スリランカ)

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