アフガン情勢めぐり国外退避を最優先、対タリバンは国際協調を呼び掛け

(英国、アフガニスタン)

ロンドン発

2021年08月17日

緊迫するアフガニスタン情勢をめぐり、英国政府が対応を急いでいる。ボリス・ジョンソン首相は、8月16日までの4日間で3度、政府横断の危機管理委員会(COBRA会議)を招集。15日には、英政府の優先事項は在留英国人約4,000人と現地協力者を速やかに国外退避させることだと明言した。現地では、政府が派遣した英国軍兵士約600人が救出活動に従事。ベン・ウォレス国防相によると、14、15日の2日間で、英国人や大使館職員ら370人が出国している。

国際社会の連携も呼び掛けている。ジョンソン首相は8月15日、北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長、国連のアントニオ・グテーレス事務総長と相次いで電話で協議し、NATO北大西洋理事会と国連安全保障理事会の早期開催を要請(注)。16日にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領とも協議し、英国が近日中にアフガニスタン問題を議論するG7首脳会合をオンラインで主催する考えを明らかにした。

ジョンソン首相は一連の協議で、反政府武装勢力タリバンを念頭に、新政権を承認する場合は各国独自ではなく、一致した対応を行うことが重要だ、と指摘。極めて近い将来に新政権が誕生することは自明としつつも、アフガニスタンが再びテロリストの温床とならないよう、西側諸国や国連などが結束する必要性を訴えた。

9月上旬まで夏季休会中の議会は、政府からの要請を受け、アフガン情勢を討議するため、上下両院とも8月18日午前に再開することを決定した。

中国を利する可能性も

対策を急ぐ政府だが、ジョンソン首相やウォレス国防相は、タリバンとの戦闘のためのNATO部隊、英国軍の再派遣は否定している。英国王立防衛安全保障研究所のニック・レイノルズ研究員は、8月16日の英国メディアの取材で「安全上の脅威が極めて大きいため、アフガニスタンでの再度の資源投下は、米国なしでは成り立たない」と述べ、NATO部隊や英国軍には独自で米軍の機能を補完する能力がないと分析している。

アフガニスタン情勢の国際的な影響について、「フィナンシャル・タイムズ」紙のギデオン・ラックマン主任外交解説委員は、中国を利する可能性があると指摘。新疆ウイグル問題を抱える中国にとって、タリバンが暴力的なイスラム原理主義の輸出を志向しなければ、大きな懸念はない。7月28日には天津で王毅外相とタリバン幹部が会談して協力の意向を示すなど、先手も打っている。これらを踏まえ、同解説委員は、両者の良好な関係が実現すれば、中国が開発したパキスタンのグワダル港と中国本土を結ぶ回廊がアフガニスタンに出現する可能性もあり、さらにインドへの圧力を増大させる好機にもなると指摘している(「フィナンシャル・タイムズ」8月16日)。

(注)その後、国連安全保障理事会は8月16日に緊急会合を開催。

(宮崎拓)

(英国、アフガニスタン)

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