外国人の幹部・専門職と中技能向けビザの発給基準、継続的に厳格化へ

(シンガポール)

シンガポール発

2021年08月31日

シンガポールのリー・シェンロン首相は8月29日、独立記念集会の演説(ナショナルデー・ラリー)で、外国人との雇用をめぐる競争に対する国民の不安に対応するため、外国人の幹部・専門職向け就労査証「エンプロイメント・パス(EP)」と、中技能向けの「Sパス」の発給基準を、これからも段階的に引き上げていく方針を示した。人材省は2010年以降、外国人の就労査証の発給基準を段階的に引き上げており、最近では2020年9月に「新型コロナ禍」に伴う雇用悪化を受けてEPの発給基準となる最低基本月給を引き上げ、同年10月にSパスの発給基準の最低基本月給を引き上げていた(2020年9月3日記事参照)。

ナショナルデー・ラリーは毎年、独立記念日(8月9日)の約2週間後に行われる、政策方針演説に相当する重要な演説。リー首相は「新型コロナウイルスによって、国内社会の断裂が一層、浮き彫りになった」と述べ、その社会課題として(1)低所得労働者、(2)外国人労働者に対する国民の不安、(3)民族・宗教間の調和、の3つを挙げた。このうちリー首相は、EPとSパスの発給基準の引き上げについて「経営に打撃を与えないためにも、急激に基準を引き上げるのではなく、段階的に行う」と述べた。また、職場での公平な扱いを保証するため、政労使代表の「公平で革新的な雇用慣行のための政労使連合(TAFEP)」のガイドラインを法制化することを明らかにした。

さらに、リー首相は、低所得労働者の所得向上のため、外国人を雇用する全ての企業に対し、雇用する全ての国民(永住権者を含む)に、地元適正給与(LQS、注)に設定されている1,400シンガポール・ドル(約11万4,800円、Sドル、1Sドル=約82円)以上の給与を支払うことを義務付けると述べた。

リー首相は、人口の8割がワクチン接種を終え、国内の感染者が増えているものの重症者数が引き続き安定していると指摘した。同首相は、新型コロナが抑えられたことから、「将来に向けて新たな成長、雇用と繁栄を模索する」段階にきたと強調。長期的な成長を維持するためにも、ビジネスハブとしてのシンガポールの地位を維持し、外国からの投資誘致と、地場企業と起業家の育成を促進すると語った。このほか、同首相の同日の演説の主なポイントは添付資料表を参照。

(注)Sパスと低技能向け就労査証「ワーク・パミット(WP)」の外国人を採用する場合には、全従業員に対して採用できる外国人の上限が設定されており、その上限の計算のため現行1,400Sドル以上の地元適正給与(LQS)を支払っている国民(永住権者)を1人と数える。1,400Sドル以下の給与の場合は、0.5人と計算する。

(本田智津絵)

(シンガポール)

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