新政府補助金法案を議会に提出、機動的な産業支援目指す

(英国、EU)

ロンドン発

2021年07月02日

英国政府は6月30日、政府補助金に関する新たな法的枠組みを規定する「補助金管理法案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を議会に提出した。国や自治政府、地方自治体による現金給付や低利融資、保証などの公的援助を規制するもので、EU離脱(ブレグジット)によりEUの国家補助規制から外れたことを受け、独自に法制化する。議会での審議と採決を経て、2022年の施行を目指す。

同法案では、新補助金制度の基盤として7つの原則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを設定。政府や自治体はこれらの原則に照らし、補助金の便益や競争、貿易、投資をゆがめるリスクを自ら評価して給付を行うほか、包括的スキームを設けて個別評価を省略することも可能にする。歪曲(わいきょく)リスクが小さく、政府などの政策目標に貢献する補助金は、さらに簡素な手続きを認める。

他方、リスクが大きいと判断する補助金にはより詳細な評価を求め、競争・市場庁(CMA)内に新設する「補助金助言ユニット」の評価と助言を要請できる。さらに、特に歪曲リスクが大きい補助金などは、同ユニットの評価・助言が必須となる。これら歪曲リスクの基準は政府規則で後日規定する。

このほか、一定額以下の補助金や、経済的緊急事態、災害などに対処するための補助金は、一部または全ての要件を免除し、速やかな交付を実現する。交付に異議がある場合、利害関係者は英国の競争審判所(CAT)に決定の見直しを要求できる。

国内やEUとの「公正な競争条件」確保

自治政府や地方自治体の裁量を拡大する一方で、国内の他地域から雇用や経済活動の移転を促すような補助金は認めない。ポール・スカリー・ビジネス担当閣外相は、同法案で「迅速かつ戦略的な経済回復を後押し」しつつ、「補助金に関して全国で一貫性のある公正な競争条件(レベルプレイングフィールド:LPF)を確保する」と述べ、自治体間の「補助金競争」などを防ぐ狙いもあることを示した。政府は2020年に成立した「英国国内市場法」で、補助金規制の権限が自治政府に委譲されないことを担保している。

政府補助金を含むLPFは、英国とEUの通商・協力協定(TCA)交渉で最大の争点の1つだった(2020年12月25日記事参照)。EUは当初、英EU共通の規制を維持することを要求したが、激しい交渉の末、双方独自の補助金制度を保持することで決着した。他方で、英国とEUは、適切な役割を担う独立組織の設置や、補助決定評価に関する法廷の役割を規定することなども合意(同記事添付資料参照)。今回の法案に補助金助言ユニットの新設やCATの役割規定などが盛り込まれることとなった。

(宮崎拓)

(英国、EU)

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