ブラジルと欧州の産業界、EU・メルコスールFTAの重要性を再確認

(ブラジル)

サンパウロ発

2021年05月14日

ブラジル全国工業連盟(CNI)とポルトガル企業家連盟(CIP)、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は4月30日にウェブ会議を開催し、2019年6月に政治合意に達したEU・メルコスール自由貿易協定(FTA)への支持を再確認した。同日発表した「ビジネス・ステートメントPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」では、このFTAがメルコスールと欧州の両地域の経済成長と経済回復に寄与するだけでなく、持続可能な開発の側面からも重要だとうたっている。

ステートメントでは、持続可能な開発について、同FTAはパリ協定など国際条約で課される目標の履行を約束しており、「野心的で先進的なルール」を定めていると述べている。気候変動などにより環境が変化する中で、両地域の産業界によるノウハウの共有促進につながるとも強調した。

経済成長と経済回復については、2020年12月にロンドン・スクール・オブ・エコノミクスが作成した「持続可能性影響評価(SIA)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」のデータを引用し、両地域のGDP押し上げ効果を説明している。保守的なシナリオでも、2032年までにEUのGDPを109億ユーロ、メルコスールのGDPを74億ユーロ増加させる見通しだ。

ウェブ会議では、欧州や南米で活躍する6人の企業家らが登壇し、持続可能な取り組みを紹介した。冒頭あいさつを行った欧州委員会のバルディス・ドムブロフスキス上級副委員長によると、メルコスールによるアマゾン森林破壊などへの対応は不十分で、同FTAの署名に消極的なEU加盟国が存在するという。他方、企業ベースでは、持続可能な開発の視点でビジネスを進めている先進事例も多くみられた。

ブラジルの大手食品メーカー、ブラジルフーズのロリバル・ルス最高経営責任者(CEO)や、ブラジル製紙大手クラビンのクリスチアーノ・テイシェイラCEOは、再生可能エネルギーの利用を重視しており、バイオマスなどへの利用へシフトする動きを説明した。ブラジルでは現在、発電量ベースで水力発電が7割弱を占めている。トラック・バス大手スカニア・ラテン・アメリカのクリストファー・ポッゴルスキ社長兼CEOは、二酸化炭素(CO2)排出量を抑える技術導入に着手していることを挙げた。

同FTAが発効することで「持続可能な開発をビジネスに取り込みやすくなる」と述べるパネリストもいた。ドイツの化学・製薬大手バイエルのリアム・コンドン取締役は、メルコスールをサプライチェーンの一翼と捉えながら、農業や脱炭素による食料供給システムを持続可能なビジネスの視点で考える枠組みになると述べている。

オーストリアのアルミ部品メーカーSAGのカリン・エクスナー・ベーラーCEOによると、持続可能で革新的な製品開発には膨大な資金を投入する必要があり、これを補うためにはより大きな市場、つまり自由貿易による市場の確保が前提条件になるという。ドイツの化学大手BASFのミヒャエル・ハインツ取締役は、異なる地域間でイノベーションを普及させるには技術移転が重要であり、このFTAにそのプロセスを促す効果が期待されると話した。

EU・メルコスールFTAは、20年の交渉期間を経て2019年6月に政治合意に達したが、まだ署名には至っていない。環境問題などを背景に一部のEU加盟国から反対意見が出るなど、膠着(こうちゃく)状態にある。

(エルナニ・オダ、古木勇生)

(ブラジル)

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