欧州委、ノー・ディールに備え特定分野の緊急時対応措置を発表

(EU、英国)

ブリュッセル発

2020年12月11日

欧州委員会は12月10日、将来関係協定の合意なき英国のEU離脱に伴う移行期間の終了(いわゆるノー・ディール)に備えたコンティンジェンシー(緊急時対応)措置(規則案)を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。今回発表された措置は、2021年1月1日にEU・英国間の将来関係協定が発効しない場合にのみ実施される。対象分野は航空輸送、陸上輸送および漁業の3分野で、航空安全に関する措置を除いて2021年1月1日から6カ月または1年間の期限付き措置となる。その間に新協定が発効した場合は、失効する。両者が新協定に合意して1月1日に発効する場合は、そもそも発動されない。

加盟国には域内市場の一体性維持を求める

欧州委によれば、2021年1月1日に新協定が発効しない場合、EU・英国関係はWTOをはじめとする国際的枠組みのルールに服するが、今回コンティンジェンシー措置を発表した分野では国際ルールが不十分で、EUの利益が損なわれるため、影響緩和措置が必要という。

提案された措置の概要は以下のとおり。

  • 航空輸送:英国の航空会社による英国・EU間の旅客・貨物便の運航など必要な範囲での「空の自由」を最長6カ月まで認めるほか、航空安全に関し欧州航空安全機関(EASA)が英国企業に発行した認証や、EASAが認めた評価機関による認証の有効性を移行期間後も認める。
  • 陸上輸送:EU・英国間の陸上貨物輸送に関する取り決めに関して、欧州運輸相会合(ECMT)の枠組みを補完し、また両者間の定期バス交通を維持するなど、陸上貨物・旅客輸送の継続性を確保する(最長6カ月まで)。
  • 漁業:最長で2021年12月末までの間、相互主義に基づき、EU漁船の英国海域における操業につき英国が承認することを条件に、EU海域での英国漁船の操業を認める。

欧州委は、移行期間の終了に備え、公表済みの89の分野別準備通知(2020年7月13日記事参照)や、英仏海峡トンネルにおける鉄道の接続に関する措置など、これまでの対策を挙げた上で「本日提案した以外にEU全体で法制化の必要なコンティンジェンシー措置は見当たらない」との認識を示し、ノー・ディールへの備えに自信を示した。

さらに欧州委は、EU加盟国が国レベルでのコンティンジェンシー措置を導入する場合の指針として、加盟国による措置は暫定的な措置であるべきことと、現在の両者の将来関係交渉でEUが提示する条件と同様の利益を英国に与える内容であってはならないこと、の2点を挙げた。EUとしては加盟国間で、英国に対する待遇に不均衡が生じることを避け、EU単一市場の一体性を維持したい意向だ。

(安田啓)

(EU、英国)

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