カステックス首相、年金の財政収支の均衡に着手

(フランス)

パリ発

2020年07月13日

フランスのカステックス首相は7月9日、年金財政の赤字削減を目指してフィリップ前首相が取り組んでいた年金改革の協議再開に向けて労使代表と個別会談を開始した。同首相は前日の国会での代表質問に対し、「(新型コロナウイルス)危機による年金の財政収支の均衡や現行制度の維持が危うい時に、年金制度に関する協議を拒否することは無責任」として、改革への強い意思を表明していた。

同首相は7月8日のニュース専門テレビ局BFM TVのインタビューで、年金改革について「労使との対話」により、「景気対策、介護保険、失業保険と合わせて包括的な展望に立って協議する」と述べた。また「構造的改革と財政収支の均衡について別々に取り扱う」とし、「公平な年金制度の一本化は長期的な案件であり、協議し直すことになろう」との見解を示し、急激に悪化した財政赤字の早期解決を優先するとした。

制度の一本化を柱とする年金改革はマクロン大統領の選挙公約の1つ。政府は2018年4月から労使と協議を開始、2019年秋から年金改革反対の抗議運動が行われる中、1月24日にようやく国会への提出にこぎつけたものの、法案の審議は新型コロナウイルス感染拡大のために中断されていた。

この間に年金改革を取り巻く状況が大きく変化、「新型コロナウイルス危機」による経済活動の急縮に伴い年金財政赤字が急激に拡大した。年金方針評議会(COR)は6月11日、後日改定する可能性がある暫定的な予測として、2020年の年金財政赤字を294憶ユーロ(GDPの1.5%)と発表した。2019年11月時点の予測は42憶ユーロの赤字だった。

マクロン大統領は7月2日、「ウェスト・フランス」など地方紙10社とのインタビューで、「政府に財政収支の均衡への取り組みを早急に求める。年金改革は放棄しないが、変更には応じる」と、予測の7倍もの財政赤字に懸念を示していた。

日本の経団連に相当するフランス企業運動(MEDEF)のルー・ドゥ・ベジユー会長は7月9日、「最優先事項は、景気回復の兆しを堅固なものにし、経済を回復させること」と述べ、共産党系の労組フランス労働総同盟(CGT)のマルティネス事務総長も同日、「雇用と低賃金が今の課題」として、年金の財政収支均衡の協議に異を唱えた。政府は17日に労使との全体会議を開催する予定だ。

(奥山直子)

(フランス)

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