収監中のルーラ元大統領を釈放、連邦議会は憲法改正審議を開始

(ブラジル)

サンパウロ発

2019年11月12日

2018年4月から収監されていたルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ元大統領が11月8日、服役期間を満たすことなく釈放された。ルーラ元大統領は収賄の罪で連邦地方裁判所の二審で禁錮12年1月(後に8年10月に減刑)の有罪判決を受けていた。

釈放理由は、二審で出た有罪判決の仮執行を連邦最高裁判所(STF)が11日7日に差し止めたためだ。STFではトフォリ長官が反対票を投じ、賛成5、反対6で仮執行を否決した。同長官はルーラ元大統領の選挙運動法務代表を過去に務め、2009年10月にルーラ大統領(当時)から最高裁判事に指名された経緯がある。

国家司法審議会は、STFによる今回の決定は二審で有罪判決を受けた約5,000人の釈放に道を開いたと評している。ルーラ元大統領以外に、ジョゼ・ジルセウ元労働者党(PT)党首(大統領府官房長を歴任)も同日、釈放された。

ブラジルでは、2016年2月に初めて二審判決後に刑の仮執行を認める最高裁判例が出たが、その後、二審で有罪確定後に人身保護令適用により刑が執行されない事例が発生していたため、STFは二審有罪確定後の仮執行が合憲か否か審議することになった。ちなみに、ルーラ元大統領も二審で有罪判決を受けた際、身柄拘束回避のため最高裁に人身保護令適用を請求していたが、却下されている。

今回のSTFの決定とルーラ元大統領の釈放は、ブラジル社会に大きな衝撃を与えた。STFの審議はテレビ各局が生中継した。当地の各報道によると、汚職議員が罰せられない慣習に対する不満が沸き上がり、立法府の連邦議会に期待を寄せる声が上がっている。

連邦議会では、二審有罪確定後に刑の仮執行をすべく、上下院で異なる憲法該当条項の緊急改正審議を11月11、12日に行う。例えば、下院では改正法(PEC410/2019)として、憲法第5条57項の「何人も有罪判決確定まで犯罪人と見なされない」を修正する。国内主要都市では9日、改憲を支持する大規模デモが起きた。

ジャイール・ボルソナーロ政権の関係者は最高裁決定の当初は沈黙を守っていたが、その後、パウロ・ゲデス経済相は自身のインスタグラムで、「STFは国家が泥棒を救済する決定を行った」と訴え、改正法案の投票を求めた。識者の間では、今回のルーラ元大統領釈放は、2018年の大統領選挙で左派のPT政権の復活を恐れてボルソナーロ氏への支持が急速に拡大した構図が再び生まれ、現政権の求心力が強まる、との見方がでている。

(大久保敦)

(ブラジル)

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