カナダ総選挙で与党・自由党は過半数に至らずも、トルドー政権維持の見通し

(カナダ)

トロント発

2019年10月23日

カナダの第43回連邦下院議会選挙(定数338)は10月21日に行われ、即日開票の結果、ジャスティン・トルドー首相率いる与党・自由党が157議席を獲得して第1党となり、政権を維持する見通しだ(表参照)。

ただ、解散時から20議席減となり、過半数(170)の議席維持には至らなかった。野党第1党の保守党(アンドリュー・シアー党首)は得票率では自由党を1.3ポイント上回り、解散時から26議席増の121議席を獲得した。保守党と並んで勢力を拡大したのは、地域政党のブロック・ケベコワ(イブ=フランソワ・ブランシェ党首)で、ケベック州内78選挙区中32選挙区で議席を確保し、解散時から22議席増となった。新民主党(ジャグミート・シン党首)はブロック・ケベコワ躍進のあおりを受けたかたちで、ケベック州で13議席を失い、解散時から15議席減の24議席となった。緑の党(エリザベス・メイ党首)は1議席増やし3議席を獲得した。

表 各党の獲得議席数および得票率

州別にみると、アルバータ州では、34選挙区のうち33選挙区で保守党が勝利し、自由党は1議席も確保できなかった。サスカチュワン州では、14選挙区全てで保守党が議席を獲得した。両州は解散前も保守党の勢力が強い州だったが、産油州であるため、自由党政権が推進してきた温暖化対策の炭素税導入、エネルギー開発規制などに対する批判票が今回さらに保守党に流れたものとみられる。両州で現職閣僚の自由党副党首のラルフ・グッデール公安危機対応相(サスカチュワン州)、アマルジート・ソヒ天然資源相(アルバータ州)が落選した。

自由党はオンタリオ州の121選挙区中79選挙区で議席を確保し、同州で第1党となった。現在の同州は進歩保守党政権の下、財政削減の公約に従って各種行政サービスの縮小や補助金の削減などが行われており、それらに対する批判票が自由党に向かったと考えられる。

自由党は議席数では第1党となったが、過半数を割り込んだため、今後、政権維持に向けて新民主党などリベラル勢力に協力を求めることになる。自由党は公約で、財政赤字を続けて政策を実施するものの、赤字額を減らすことを掲げ、新民主党は財政赤字の対GDP比を向こう10年で減少させるとしている。炭素税の導入にも新民主党は支持を打ち出しており、これらの公約については両党で合意して協力する余地はある。一方、環境・エネルギー分野では、トランスマウンテン・パイプラインを拡張する方針の自由党に対し、新民主党は拡張に反対するなど、協力態勢を築くには調整すべき項目があり、下院議会が始まるまでに交渉を進めるとみられる。他方、地元のレジャイナで勝利宣言をした保守党のシアー党首は、自由党政権が立ち行かなくなった場合には、保守党が取って代わる、と政権交代に自信を示した。

今回の総選挙結果について、カナダビジネス協議会のゴールディー・ハイダー会長兼CEO(最高経営責任)は22日、「多くのカナダ人が経済の将来について不安を感じていることが分かっていながら、各政党は経済成長のための一貫した計画や、市民の生活向上に向けた方策をほとんど示さなかった」と振り返りつつ、「われわれは全ての地域の経済成長を促し、全ての市民がより良い未来に希望の持てる政策を形成するために、政府や政党と協力する用意がある」との声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

(酒井拓司)

(カナダ)

ビジネス短信 b5980830b98658a7