トーマス・クック破綻、スペイン観光業に深刻な打撃

(スペイン)

マドリード発

2019年10月03日

英国旅行大手のトーマス・クックが9月23日に破産申請し、傘下の航空会社の大部分が運航を停止した。レジェス・マロト産業・商業・観光相は、翌日のスペイン国営ラジオ放送で、スペインで足止めされた観光客の数は5万3,000人に上ったことを明らかにした。

スペインはトーマス・クックにとって最大の市場で、年間2,200万人の利用客のうち700万人がスペインへの旅行客で占められていたという。また、年間売上高の約4分の1に相当する25億ユーロがスペイン関連のツアーや路線での売り上げで、同社の破綻はスペイン観光業界に深刻な打撃を与えている。

リーマン・ショック並みの危機

観光業界団体EXCELTURのホセルイス・ソレダ副会長は9月23日のラジオ局カデナ・セルのインタビューで、トーマス・クックがスペインのホテル、レンタカー、観光バス会社などのサプライヤーに対して抱える未払金は2億ユーロに上ると述べた。破綻でこの回収が困難となる恐れがあることから、スペイン旅行代理店連合(CEAV)は「観光業にとっては、リーマン破綻に匹敵する打撃」(9月23日付の各紙)と表明した。ホテルチェーンのメリアやNHホテルズ、予約システムのアマデウスなどの観光関連株は23日、トーマス・クック破綻を受けて一斉に下落した。

トーマス・クックはスペインでは地中海沿岸部や島しょ部の観光地を中心に展開していたが、最も損害が大きいのは、10月から(春の)イースターにかけて観光ピークを迎えるカナリア諸島だ。同社が秋冬シーズンに向けて押さえていたホテルは、全てキャンセルされた。

カナリア州を訪れる外国人観光客は、スペイン全体(2018年は8,277万人)の17%に相当する1,396万人で、うち521万人が英国、322万人がドイツからのインバウンド客だ。同州観光業協会は、同州を訪れた外国人観光客の25%に相当する約345万人がトーマス・クックの利用客だったと試算しており、同社への依存度は相当高かった。2018年の英国からの観光客数は前年から32万人(5.8%減)減少しており、同州の観光業は危機感を募らせる。

最も不安視されるのは、トーマス・クック傘下の航空会社の破綻によって、英国や北欧からの路線が縮小したことだ。同州では、アイルランドの格安航空ライアンエアーが2020年1月初旬にカナリア諸島の3拠点の閉鎖を検討しており、今回の破綻は二重の打撃となる。同州の観光業界は、代替航空会社による路線確保が急務として、航空会社が納める空港使用料の減免などの救済措置を政府に要請しており、10月初旬に政府とカナリア州政府でこれをめぐる協議が行われる予定だ。政府は9月26日には、欧州委員会に対しグローバル化調整基金(注)を通じた財政支援を要請する方針を示した。

今回の破綻は、トルコやギリシャ、チュニジアなど競合国の観光の回復・成長の影響により、これまでインバウンドの増加に支えられてきたスペイン観光産業の成長が大幅に減速したタイミングで起こった(図参照)。特定の国への依存からの脱却、シーズン平準化、多様化する観光需要への対応といった、従前からの課題があらためて指摘されている。

図 訪スペイン外国人観光客数の推移

(注)グローバル化に伴う貿易の構造的な変化により、失職した者を支援するEU基金。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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