マルムストロム欧州委員、市民対話で5年間の通商政策を総括

(スペイン、EU)

マドリード発

2019年09月18日

欧州委員会が9月10日にマドリードで開催したシンポジウム(市民対話)において、2014年から欧州委員(通商担当)を務め、この10月末で任期が終了するセシリア・マルムストロム氏(スウェーデン)と、スペインのルイス・プラナス・プチャデス農業・漁業・食料相が、EUの通商政策などについて活発な議論を交わしたほか、会場から寄せられた質疑への応答を行った。

マルムストロム委員は冒頭、世界の貿易関係は過去5年で大きく様変わりし、保護主義の台頭、米中貿易戦争、国境の壁、SNSの政治利用など、多くの国にとって容認しがたい状況になったと述べた。そして、「EUはこれに対抗し、持続可能な発展と多国間ルールを尊重した通商関係づくりを進め、カナダや日本、メルコスール諸国など、価値観を共にする友好国との間で、規制協力、技術アクセス、デジタル化に対応した次世代協定の締結が進展した。通商面では、加盟国の足並みがおおむねそろっていたことが幸いした」と評価した。一方、米国との包括的貿易投資協定(TTIP)の交渉再開の可能性については、「現時点では不可能。将来的に、TTIPではない別の呼称で仕切り直しとなるだろう」と述べた。

ブレグジット、メルコスール、投資紛争解決システムが話題の中心に

6月に大枠合意に達したEU・メルコスール自由貿易協定(FTA)について、プラナス農業相は、スペインはメルコスール諸国に対し28億ユーロの農業貿易赤字を抱えているとして、「農業セクターが影響を懸念するのは当然。セーフガード条項で守りつつ、FTAによる商機を生かして(輸出)攻勢をかける必要がある」と強調した。農業分野の影響を懸念するフランスが、ブラジル大統領によるアマゾン森林火災への対応が不十分との趣旨で、批准に対する態度を硬化させている状況について、マルムストロム委員は「批准には2年以上かかり、その間も交渉の詰めは可能」と、楽観的な見方を示した。

同委員はさらに、FTAの投資紛争解決について、投資家が投資受入国政府を相手取って仲裁機関に提訴することを可能にするISDS条項が1950年代からFTAに盛り込まれてきたが、「投資受入国の国民の権利の保護が不十分」であり、「EUは、提案する中立的な常設投資裁判所を、既に複数の国との投資協定において導入しており、日本に対しても理解を求めていく」と述べた。

英国のEU離脱(ブレグジット)については、同委員は「北アイルランドとの国境管理について、英国からの代案待ちだ。ただし、域内市場に影響せず、ベルファスト合意に抵触しないことが交渉の大前提」とした。離脱に伴う加盟国の負担引き上げについては、「次期欧州委員会は、グリーンディール、デジタル化、移民問題などアジェンダ(政策課題)が多いが、加盟国間で価値観を擦り合わせ、歳出入のバランスが取れた持続可能な拠出システムが求められる」と述べた。

写真 市民対話で発言するマルムストロム欧州委員(中央)(ジェトロ撮影)

市民対話で発言するマルムストロム欧州委員(中央)(ジェトロ撮影)

(伊藤裕規子)

(スペイン、EU)

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