ノー・ディールに備え、テロ・犯罪対策の覚書と労働市場アクセス確保の協定を英国と締結

(スイス、英国)

ジュネーブ発

2019年07月23日

スイスのカリン・ケラー=ズッター法務相は7月10日にロンドンで、英国が合意なくEUからの離脱(ノー・ディール・ブレグジット)に至った場合にも、スイスと英国が安定した関係を構築できるよう、テロおよび犯罪の共同対策にかかる覚書(MOU)と、労働市場の相互のアクセス確保に向けた協定を締結した。

覚書の内容は、両国の警察間の協力をさらに強化し、テロおよび犯罪者などのデータベースであるシェンゲン情報システムから英国の情報が削除された場合にも、両国でテロリストや犯罪者に関する情報交換を可能にするものだ。また、協定は、ヒトの自由な移動に関する協定が失効しても、新たに英国に移住するスイス人やスイスに移住する英国人に対し、社会保障や居住の権利を確保し、相互に職業能力の認定結果を受け入れるためのものだ。なお、離脱日時点で既に相手国に居住する国民が同様の権利などを維持する協定は、2月25日に締結済みだ。

英国は、スイスにとって6位の輸出相手国、8位の輸入相手国(2018年)であるとともに、4位の対内投資国(2017年)だ。また、英国に住むスイス人は約3万5,000人、スイスに住む英国人は4万1,000人で、互いの経済関係は深い。英国が、合意なくEUを離脱する場合は、2020年末までの移行期間が設けられなくなるため、スイス・英国間の通商関係を維持するための暫定措置を設けておく必要がある。

英国はブレグジット後も、EUが現在、EU域外の国・地域と締結している貿易協定の主要なものは継続しようとしており〔日EU経済連携協定(EPA)は発効間もないため、その対象となっていない〕、これまで、スイス、リヒテンシュタインを含めた38カ国・地域と既にブレグジット後の通商関係を維持するための協定の締結または合意に至っている。スイスも、合意なき離脱に至った場合にも、英国との継続的な関係を確保するための戦略「マインド・ザ・ギャップ・ストラテジー」に基づき、英国との交渉を行ってきた。これまでに両国は、スイスがEUと締結している協定(自由貿易、政府調達、汚職防止、自動車・化学品試験・医薬品製造の分野での相互承認、農業に関する協定の一部)に相当する協定を、2019年2月11日に締結。また、保険協定と自動車貨物輸送の際の相互許可協定を2019年1月25日に、航空輸送協定を2018年12月17日に締結している。

(和田恭)

(スイス、英国)

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