議会選後の組閣めぐり政治的混乱、「二重権力」状態に

(モルドバ)

欧州ロシアCIS課

2019年06月11日

欧州CIS地域のモルドバで政治的な混乱が発生している。憲法が定める議会選挙後の組閣準備期間の解釈をめぐり、連立政権と憲法裁判所が対立。イゴル・ドドン大統領が任命した首相と、憲法裁判所が任命した大統領代行が並び立つ事態となった。国政の混乱が長引けば、経済にも悪影響が及ぶ可能性がある。

モルドバでは憲法上の規定により、首相と議会が国政運営の実質的な権限を握る。2月24日に実施された議会選挙(定数101)で、ドドン大統領を支持する社会党(親ロシア派)が36議席、実業家ウラジミル・プラホトニュク氏が党首の民主党が30議席、政党連合「ACUM(『今』の意)」(親EU派)が26議席を獲得したが、過半数に達した政党はなく連立協議は難航。憲法では、3カ月以内に内閣を組閣できない場合は、再度議会を解散すると定めており(第85条第1項)、再選挙の観測も一時流れた。最終的に社会党とACUMの間で連立に合意し、社会党党首のジナイダ・グレチャナヤ氏を国会議長に選出、ドドン大統領は6月8日にACUMを構成する政党「行動と堅実」党首のマイヤ・サンドゥ氏を首相に任命した。

しかし、憲法裁判所は6月9日、首相任命は既に憲法が定める期間を経過しており、サンドゥ氏の首相任命は違憲で、憲法上の責務を履行しないドドン大統領の権限を一時的に停止させると同時に、パベル・フィリプ前首相(民主党)を大統領代行に任命することを決定。ドドン大統領とサンドゥ首相は憲法裁判所の決定を受け入れることを拒否したため、ドドン大統領、サンドゥ首相、それに議会多数派と、フィリプ大統領代行が並び立つ「二重権力」体制が生じる事態となった。憲法裁判所の判事は民主党のプラホトニュク氏に近い人物とされ(「コメルサント」紙6月9日など)、連立協議で社会党にはしごを外されたとする第2党の民主党との政争(注)が国政に波及したとみられている。

連立政権側は憲法裁判所が要求する議会解散・再選挙を受け入れることは難しく、一方で憲法裁判所の判断を覆すことも簡単ではない。また、警察・軍隊は明確な立ち位置を示していないとされる。ドドン大統領は平和的解決と国際的な仲介を希望しているが、現状が長引けば国政が停滞し、経済政策や企業活動に支障が出る可能性がある。

(注)連立政権が最も有力な実業家であるプラホトニュク氏の影響力から脱することを政策に掲げたため、対立が激化したとの見方も指摘されている。

(高橋淳)

(モルドバ)

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