英小売り大手、高精度人体3Dスキャニング技術のロシア・スタートアップ企業に出資

(ロシア、英国)

欧州ロシアCIS課

2019年05月21日

衣料品・靴・ギフト商品・家庭用雑貨・食品などを扱う英国小売り大手マークス&スペンサー(M&S)はこのほど、高精度の人体3Dスキャニングの技術を有するロシア・スタートアップ企業テクセルに投資を行った。テクセルが入居しているロシア最大のイノベーションセンター「スコルコボ」が5月14日に発表した。

テクセルは2014年創業のロシアの技術系スタートアップ企業。人体を3Dスキャナーによって短時間かつ高精度で計測し、デジタルアバター(注)を作成。消費者の体形に最も適した衣類のサイズを紹介する技術・システムを有する。アパレル分野で消費者はオンライン上で自分の体形にフィットする衣類を簡単に見つけられ、小売事業者にとっては売り上げ増と返品率の削減に貢献する、双方にメリットのある技術。ロシアだけでなく、米国、オーストラリア、ドイツ、フランス、オーストリア、ギリシャ、カタール、インド、中国、香港にスキャナーが導入されており、2018年上半期時点で7万6,000体のスキャン実績を有する。

写真 テクセルの3Dスキャナー(ジェトロ撮影)

テクセルの3Dスキャナー(ジェトロ撮影)

小売り分野の情報サイト「リテールウイーク」(5月14日)によると、M&Sは英国人起業家ブレント・ホーバーマン氏などが運営するスタートアップ向け投資ファンド・アクセラレーター「ファウンダーズ・ファクトリー(FF)」との合弁会社(JV)を通じて購入する。このJVは2018年7月にM&Sがデジタル・ビジネスへの転換に向け立ち上げたもの。M&Sは新しいアイデアへの挑戦と既存の取り組みの革新を志向している。今回の取引について、金額など詳細は明らかにしていない。

M&Sは計測性、正確性の高い技術を有するテクセルと、デジタル・フィッティングテクノロジーの共同開発と試験を実施する予定で、それは現在主流となっている消費者の体形・サイズをアバターやマネキンのかたちで可視化し、3Dでの衣服型の作成を可能とするイスラエルのオプティテックスの技術を補完するものとしている。

M&Sの衣類・家庭技術部門長のパスカル・リトル氏は「テクセルの技術は当ブランド衣類の試着に新たな方法を提供するもの」とし、テクセルの共同創業者セルゲイ・クリメンティエフ氏は「当社の技術がオンラインショップでの消費者購買にどの程度貢献できるかが楽しみ」と語った。

テクセルは「スコルコボ」の入居企業だけでなく、モノのインターネット(IoT)分野の国営アクセラレーター、投資ファンドであるインターネットイニシアチブ発展基金(IIDF)が支援を行っている企業。2018年10月に幕張メッセで開催された国際IT・エレクトロニクス見本市「CEATEC JAPAN 2018」に、ジェトロが日本企業とのマッチングに向け招いたロシア企業のうちの1社だ。

(注)自身の分身となるキャラクターのこと。

(齋藤寛)

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