米中通商摩擦も念頭に、EU通商戦略強化を求める欧州自動車産業界

(EU、米国、中国)

ブリュッセル発

2019年05月21日

欧州自動車工業会(ACEA)は5月20日、欧州議会選挙に向けて「事務局長声明」を発表した。エリック・ヨナー事務局長はEUの置かれた状況について、「EUの基本理念である移動の自由や自由な貿易体制がこれまでになく脅威にさらされている」との厳しい現状認識を示した。また、欧州議会選挙に向けて、各会派・グループがEUの成果やEU加盟国であることの是非を争点に挙げている実態にも言及し、「欧州が進むべき方向性をめぐる対立をしのぐ、より根本的な問題にわれわれは直面している」と指摘。EUとして的確な判断を下し、問題に対処するため、EUが団結し適切に機能することが、これまでになく重要になっていると警鐘を鳴らした。

EUの役割として4つの移動の自由の保障などを強調

同声明でヨナー事務局長は、次期・欧州議会や欧州委員会に対し、今後5年間で実現を求める要望事項として、次の4点を挙げた。

  1. 域内単一市場完成の追求:同事務局長は、EU単一市場を支える人、モノ、サービス、資本の4つの移動の自由が、EUを横断するサプライチェーンで成り立つ自動車産業の競争力および成長を支えるカギとなる点を強調。英国のEU離脱(ブレグジット)をめぐる問題により、(単一市場を実現する)EUの重要性が再確認されたとした。
  2. 国際舞台で野心的な通商政策を守るためのリーダーシップを発揮すること。同時にルールに基づく貿易のため、WTOを強化すること:同事務局長は「米中通商摩擦やブレグジットは、グローバル産業である自動車業界の雇用と成長にとって深刻な脅威」とし、国際ルールにのっとった自由で公正な貿易環境が、同業界の繁栄の前提になる点を強調。EU28カ国が通商問題に立ち向かい、団結することが極めて重要と述べた。
  3. 域内のルールや政策の一貫性と調和の確保。他方、技術的な基準策定などは専門家に任せること:自動車産業にとって、通商政策に並んで重要なのがEU域内での共通のルール・基準だと強調。公平な競争環境のみならず、長期投資に不可欠の要件とした。他方、排ガス基準などをめぐるEUの規制圧力は極めて強く、産業界は既に限界に達している事実も認めざるを得ないとした。
  4. デジタル化やエネルギー転換のための適切な技能を備えた人材を整備するための措置を含む、欧州主要分野での強力な産業政策の策定:昨今、技術革新の波がモビリティー(移動手段)を再定義しつつある状況にある中で、雇用と(産業としての)長期的な生き残りを確実にするためには、欧州自動車サプライチェーン全体が持続可能な速度で変化するための取り組みが求められるとした。

(前田篤穂)

(EU、米国、中国)

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